02

目が覚めてすぐ寄宿舎の天井が目に入り、昨日の出来事が夢ではないことを思い知る。

昨日はあれからコロシアイを要求されたり、巨大地下道に挑んだりかなり疲れてすぐに寝てしまった。
朝は食堂に集まることになっていたのでルーちゃんを連れて部屋を出る。


「名字さんおはよう……昨日のことが夢じゃないかって期待したけど……はあ……」
「白銀さんおはようございます。私も同じことを考えてました。昨夜は気が休まりませんでした……」
「現実に立ち向かわなきゃね……。あ、朝からこんな話してごめんね?じゃあ、先に食堂に行ってるね」

やはり皆気が滅入っているのだろう。私も自分の置かれている状況を把握しきれていない。


校舎に入ると最原くんと赤松さんが話していた。私は一つ呼吸をおいてから、できるだけ自然な笑顔で話しかける。

「二人ともおはようございます」
よし、不自然なく話しかけられたと思う。2人は私を見ると笑顔で挨拶を返してくれた。

「名字さんおはよう。これから食堂に向かうところなんだ。一緒に行かない?」
「はい。赤松さん、昨日はかなり無理をしてましたけど体調は大丈夫ですか……? 無理は禁物ですよ?」
「大丈夫だよ! 心配かけてごめんね?」

赤松さんはみんなを引っ張って一緒にここから出ようと頑張っている。私にできることは何かを考えなきゃ。最原くんの顔色がよくないのが心配だけど……。



「おはようー。終一は朝からモテモテだね〜!」
「男死の分際で両手に花ですか! 赤松さんも名字さんもかわいいのですから気をつけてください!」

朝から苦笑いのわたしは皆が揃っていることにひとまず安心する。

が、モノクマの登場によって空気は一変した。


「オマエラにお知らせがありまーす!」


「きゃあああああ!!」
「ちょっと、いきなり出てこないでよ! 心臓への負担が甚大だよっ!」
「あ、ごめん。驚かすつもりはあったんだ」
「……あったんじゃな」
「で……何しに来たんすか?」

「オマエラが全然動かないからさ、"人を殺す言い訳"を与えてあげようと思って」
「……人を殺す言い訳?」
「つまり、動機だよ! では記念すべき最初の動機を発表しまーす!」

そうしてモノクマの口から告げられたのは、最初に行われる殺人に関しては学級裁判が行われないという初回特典だった。

「何が初回特典ですか! ゲームの商法みたいな事を言わないでください!」
「この……クソヤローがぁ!」


百田くんがモノクマに掴みかかろうとした時……



グシャ



モノクマがエグいサルによって踏み潰されてしまった。

心臓が飛び出さんばかりに驚いた私は思わず隣の人にしがみつく。
「にしし。名字ちゃん……ビックリしちゃった?」
私は引きつった顔のままその声の主を見る。
「大丈夫! ゲームマスターがいなくなった今、このゲームは続行不可能なんだから」
「つまり……モノクマがいなくなったので、コロシアイはしなくてもいいということですか……?」
「そういうこと! ところでいつまでオレにしがみついてるの?」
そう言われて私は我に返り、王馬くんにしがみついていることに気がついた。
「ご、ごめんなさい!」
咄嗟に離れる。今さら手がじんわりと汗ばんできた。
私……かなり動揺しているんだ。



その後、コロシアイは終わり……ということで解散になったけれど……まだ何かありそうな不安を拭いきれない。
嫌な予感が塊となって胸につっかえているような息苦しさを感じる。私は重い足取りで食堂をあとにした。



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