18
今朝モノクマーズのアナウンスで呼び出された私たちは体育館に集まっていた。
「はぁーあ、こんな朝っぱらから呼び出すなよ。こっちはあの子が激しすぎて一晩コンピュータ室にこもりっぱなしだったってのによ」
「ところで、オレって寝ぼけてるのかな? なんで"彼女"の姿が見えるんだろう?」
王馬くんは入間さんの意味深な発言を無視して春川さんのことを指摘する。
当の本人は黙ったまま動かない。
「そっか! 幻覚だね! オレらとは顔を合わさないって言ってたもんね!」
「バカ言ってんじゃねーよ。集まらなかったら何されるかわからねーんだぞ?」
口をつぐんだままの春川さんの代わりに百田くんが反論する。彼女をここまで連れてきたのも百田くんなのだろう。
「「くまたせー!」」
百田くんと王馬くんが言い合っているとモノクマーズがいつものようにどこからともなく現れた。
「もー、なんなのさ! 急にこんなところに呼び出したりして!」
「モノタロウ、呼び出したのはアタイ達の方よ?」
「早速、動機ヲ発表シヨウカ……」
モノタロウとモノファニーのショートコントを遮るような形でモノダムが口を開く。
やはり、私たちが呼び出されたのは動機を伝えるためだった。そんな気はしていたけれど、いざその時が来ると身が固くなってしまう。
モノクマーズから告げられた動機はおよそ常軌を逸したものだった。
「誰か一人を蘇らせる……だと? バカ言ってんじゃねー!」
そう叫んだ百田くんの顔は真っ青である。かく言う私も背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「そんなこと……起こっちゃならねーんだよ……」
彼の小さな呟きには願望も込められている気がする。
慌ただしく死者の蘇りについて説明したモノクマーズはそのやり方を記載している屍者の書を置いて去って行った。
残された私たちはしばし無言で立ち竦む。
「真宮寺くんは、この手の話に詳しいのではないですか?」
私は半ば縋り付くように尋ねる。彼が死者の蘇りを否定するならばそんなもの絶対に起こり得ないのだ、という希望を込めて。
「"黄泉返りの儀式"というのは世界各地のお葬式が元になっているんだ。死者を弔って黄泉に送る行為は一種の儀式なんだヨ」
「ということは……死者の蘇りはあるのですか……?」
私は冷や汗で滲む拳を握りしめながら真宮寺くんに先の言葉を促す。
「ククク……何を言っているんだい。死者の蘇りなんてあるわけないじゃないか。死者の魂が存在するのは間違いないけど、死んだ人が蘇ることはないヨ……」
「そうなんですね……!」
その言葉を聞いてほっと身体の力が抜ける。胸の前に手を置いて深く息を吐き出した。
しかし、安心した私の背後からアンジーさんが口を挟む。
「んー、アンジーは死者が生き返ってもおかしくないと思うよー」
「え……?」
私は彼女の言葉に耳を疑い、振り向いた。彼女はいつもの笑みを顔に浮かべている。無邪気なその笑顔が得体の知れないものに見えた。
「そうですね……アンジーさんが言うならそうなのでしょう」
「他ならぬアンジーさんですからね」
キーボくんと茶柱さんの発言に益々耳を疑う。やけに素直というか……なんとも言えない違和感を感じる。特に茶柱さんなんかは夢野さんと仲良くするアンジーさんを快く思っていない節があったのに……。思わず周囲を見回したところ、同じように訝しげな顔をした人が何人かいた。
そのうちの一人、最原くんと目があう。彼も眉を寄せて怪訝な顔をしている。そのまま彼はアンジーさんを見やった。
「ちょっと待って。今の流れは不自然だよ。まるでアンジーさんの言うことは絶対だというように聞こえたんだけど……?」
「そのとおりです。神様の言うことは間違っていないのです」
「ウチはとっくにアンジーを支持しておる」
キーボくんと夢野さんの言葉に反応するように白銀さんと茶柱さんもアンジーさんの周りに集まる。
異様な威圧感を出すその集団に、疑問を投げかけずにはいられなかった。
「えっと……皆さんどうしたのですか……?」
私の質問に答えるように、茶柱さんが声を張り上げた。
「私たちは夜長アンジーさんを生徒会長とした才囚学園生徒会です!」
「え……?」
あまりに突拍子もないことを言うものだから、自分の口から間抜けな声が出てしまった。
最原くんも意味がわからないという風に眉を寄せている。
「わたしたちはアンジーさんをリーダーにして一致団結することにしたんだ」
「マニフェストは……コロシアイの根絶です」
「えっと……どういう風の吹き回しかな?」
最原くんが困ったように尋ねる。
「だからー、アンジー達が生徒会として平和な才囚学園を作るんだよー。神さまも協力してくれるよー」
この学園を良くしようと思ってくれているのはいいことだが、これはそう簡単な問題ではない気がする。閉鎖的な空間でコロシアイを強要されているこの環境で派閥が生まれることは好ましくない。争いの種になるだけだ。
「あーあ、みんなすっかり洗脳されちゃってるね」
「ククク……いつの間にか夜長さんが、ここまで勢力を伸ばしていたとはネ」
「神さまなんて興味ねーな」
「ダメだよー。神さまが怒ると罰が当たるんだよー。これからは生徒会がこの学園を良くしていくんだよー」
派閥どころかこれではほぼ絶対君主制と変わらないではないか……。アンジーさん達の様子からはこの学園を支配しようという目論見は見られない。純粋に平和な学園を作ろうとしているようだ。しかしこのような方法ではむしろ対立が生まれてしまうのではないだろうか……?
あれよあれよという間にゴン太くんまで巻き込んで、アンジーさん達は体育館を出て行ってしまった。
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