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「寝てる……かな?」
「えぇ、寝てるわよ。スヤスヤとね」
「プレゼントを置いたらさっさと帰るで」
「そう焦らせないでよ……。暗くて……どれが誰のだかわからないんだから」







"王馬小吉の動機ビデオ"
秘密結社DICEの総統
人を殺さない、かつ、笑える犯罪
10人の優秀な手下達……。


いつものようにベッドから起き上がると、机の上に置いてある見慣れぬパッドが目に入った。不思議に思って手に取ってみると、王馬くんの動機ビデオが再生されたのだ。そのパッドの裏には小さくモノクマーズパッドと書かれている。


よりにもよってなぜ王馬くんのものが……?
王馬くんに報告すべきか否か。さんざん悩んだ挙げ句、私は今、王馬くんの部屋の前に立っている。
インターホンを鳴らすとすぐに部屋の扉が開いた。一瞬のうちに腕を強く掴まれて部屋の中に引き込まれる。

「王馬くん!? 痛いです……」
「あぁ、ごめんごめん。で、名字ちゃんが来たってことは、オレの動機ビデオは名字ちゃんに渡ってるってことかな」
私は口を一文字に結んだまま頷く。私達は言葉を発しないまま視線を交わす。

先に口を開いたのは王馬くんだった。
「全部見たの?」
「ごめんなさい……」
私をじっと見つめてくる王馬くんは同じくらいの身長とは思えない威圧感を放っている。思わず視線を外した。


「ま、おあいこかな」
少しの沈黙の後、そう言った彼の声からは圧が抜けていた。彼の手にはモノクマーズパッドが握られている。
「もしかしてそれは私の……?」
「そうだよ。見てみる?」
王馬くんは口の端をにぃっと吊り上げてモノクマーズパッドを差し出す。
これを見れば私の大切な人や大切なもの、過去なんかも思い出せるのだろうか。
気がついたら私の手はモノクマーズパッドに吸い寄せられるように伸びていた。


しかし、私はその手を引っ込めた。
「……やっぱりいいです。見ない方がいいと思うので」
「え〜気にならないの? 自分に嘘をつくなんて良くないと思うよ?」
王馬くんの不敵な笑みは悪意からくるものか、ただ純粋に面白いからなのか、どちらにせよ動機ビデオを見るのはよくない。

「名字ちゃんが見るか見ないかは自由だけど、オレの分はもらうよ」
王馬くんはそう言って私の手からモノクマーズパッドを取った。
私が止める間もなく、王馬くんは動画を再生する。


王馬くんはただ無言で動画を見つめていた。
表情は見えないが、家族同然の仲間たちのことを思い出しているのだろうか。

王馬くんが動画を見終わった時、タイミングが良いのか悪いのか、インターホンが鳴った。
まずい、お互いの動機を持ったまま個室に二人きりのところを見られたらどう思われるか…
私は反射的に扉の死角に身を潜めた。

「はーい、何?」
私のことを配慮してなのか、王馬くんは扉を細く開ける。動機ビデオを見たことで変な気を起こさないか心配していたのだが、今のところ特に変わった様子はない。


「テメーも早く食堂に来い! みんなで話し合うことがある!」
声の主は百田くんだ。かなり焦っているようだがおそらく動機ビデオの件だろう。
「はいはい。わかったよ〜」
「あと一つ、一応の確認なんだが名字知らねーか? 部屋にも食堂にもいねーんだよ」
「名字ちゃん? 起きてから1歩も外に出てないオレが知るわけないじゃん。まあ、名字ちゃんが何をしているかだいたいの予想はつくけどね」
「本当か!? どこにいるんだ!?」
「まあまあ、仕方ないからオレが食堂に連れて行くよ」
「また嘘か……? まあ連れてこなかったら俺が探すだけだ」
百田くんの声音から、王馬くんに疑いの眼差しを向けていることが容易に想像できるが、一先ずここは王馬くんに任せることにしたようだ。


王馬くんが扉を閉め、ようやく息を吐き出す。
何事もなく終わってほっと胸を撫で下ろすと同時に、先程の王馬くんのセリフが気になった。
「私が何をしていると予想したのですか……?」

その質問を受けた王馬くんはニヤリとからかうような笑みを作る。
「動物だけが友達のかわいそうな名字ちゃんは、きっと朝から自分の研究教室に引きこもってるんだろうなーって思っただけだよ!」
「んー……あながち間違ってないのがムカつきます!」
「うわ……本当だったんだ……かわいそうな名字ちゃん……」
思いっきり同情の目を向けられ居たたまれない気持ちになる。
……私には研究教室で待っているお友達がいればそれでいいのだ。



食堂に集まったのは私と王馬くんが最後だった。

「王馬、ちゃんと名字を連れてきてくれたんだな」
「まーね、名字ちゃんの居場所くらいわかって当然だよ。なんたってオレたち仲良しだからね! そうだよね? アンジーちゃん?」
「もっちもちー。名前と小吉は仲良しこよしなんだよー」
「どうしてそこでアンジーさんに確認を取るのですか!? 私に聞いてください! そして私はそこの男死と名字さんが仲良しだなんて認めません!」
「おい! ツルペタ同士で乳繰り合ってんだかなんだか知らねーがオレ様の時間をムダにすんじゃねーよ! さっさと要件を話せキー坊!」
「どうしてボクなんですか!?」
「オメーも配られてただろ? あれがさ」


なんだかひと悶着あったが、やはり他のみんなも動機ビデオが入れ替えられた状態で配られているようだ。もちろん、交換しないということで意見が一致すると思われたのだが……。

「とにかく、オレらは無理に協力なんてしないで、適度にバラバラの方がいいんだよ。そういう訳だから、オレはみんなの為に忠告しておくよ。協力なんてやめて、動機の交換をした方がいいってね」
またこういうことを言い出した王馬くんは、ゴン太くんを連れて食堂から出ていってしまった。
星くんも動機を見る派なようだ。


今回の行動の意図は何だろう。
王馬くんが知っているのは私の動機と自身の動機。だから自分の動機を知りたくて交換する訳ではない。それに動機ビデオの危険性も把握しているだろう。
その上で動機の交換を促すということは……本気で和を乱そうと思っているのだろうか。

最原くんは王馬くんの言うことに納得がいかないようだが、私は彼の言うことにも一理あると思う。
私達が団結するほどモノクマがそれを壊そうとしてきたのは事実だ。

だからと言って動機の交換には賛成できないけれど。


「私も……席を外します」
「え、名字さん?」
私は背中に最原くんの視線をあびながら、食堂をあとにした。



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