02
「ヌメーレ湿原、通称詐欺師の塒。二次試験会場へはここを通って行かねばなりません。十分注意してついてきてください。騙されると死にますよ」
サトツさんはそう言うと例の大股で歩き始めた。私はルートから外れないように先頭を走る。
「おーい! クラピカー! レオリオー! 名前ー! キルアが前の方に来ておいた方がいいってー!」
「行けるならとっくに行ってるわ、どあほー!」
暫く走っていると、少し後ろからゴンの大きな声とレオリオの必死な叫びが聞こえた。
私は前の方にいるんだけど。
心配してくれているみたいだから姿を見せておいた方がいいかな。
私はゴンの姿を探すために少しペースを落とした。霧で人の区別がつかないが、彼の居場所はすぐに分かった。
「咄嗟に名前の名前も呼んじゃったけどどこにいるんだろう?」
「知らね。案外前の方にいたりして」
「正解。私はここにいる」
2人の話し声に導かれるように近づく。キルアは若干ギョッとした顔をしていたけど、ゴンは目を輝かせて私の名前を呼び、笑顔を見せてくれた。
「もう少し前を走った方がいい。霧が濃くなってきてる」
「言われなくても分かってる。ゴン、ペースを上げようぜ」
キルアはゴンに向かってそう言うと歩幅を大きくして走り始める。
どんどん見えなくなるキルアの背中を見つめながら、余計なお世話だったかなと少し反省する。
「俺達も早く行こうよ!」
ゴンの誘いに私は頷き、キルアを追いかけた。
進めば進むほど霧で見えにくく周りの状況が把握できない。
それでも受験生の数が減っていることはわかった。時折全く見当違いな方向から悲鳴が聞こえるからだ。
クラピカとレオリオは無事だろうか。
そう思った時、
「ってぇーー!!!」
後方からレオリオの叫び声が聞こえた。
私が反応すると同時にゴンも後ろを振り向く。
「ゴン!」
ゴンはキルアの制止に耳も貸さずレオリオ達の元へ走り始めた。
私は後ろ髪を引かれる思いで走り続ける。でも……
ゴンの背中がみるみる遠ざかっていく。
「名前、お前まで後ろに行くなんて言わないよな」
キルアは少し眉を寄せて私の顔を見た。きっと、答えは薄々分かっているのだろう。だからこういう聞き方をしてきたのだ。それが私のことを思ってなのか、話し相手がほしいからなのかは分からないけれど。
「ごめん。行ってくる」
私はそれだけを告げて踵を返した。叫び声が聞こえたところまで全力で走り始める。
去り際に、キルアの溜息が聞こえた気がした。