エピローグ



クラピカと生きると決めたものの、クラピカはそれを容易く了承してはくれなかった。何の柵もないのならば、手放しで受け入れてくれただろう。
しかし、これからクラピカが進む道は厳しいものだ。私にだからこそ見られたくないことだって、やらなければならないかもしれない。できれば私を巻き込みたくないとも思っている。

それでも、私はクラピカと生きることを選択し、彼を説得した。
私だってクラピカたちを巻き込みたくないと思ったけれど、それが逆に彼らを心配させることになってしまった。
だからクラピカも、受け入れてって。
我ながらずるい言い方だと思う。私はいつからこんなに我が儘になってしまったのだろう。

いや、クラピカだからこそ、こんな我が儘を言えているのかもしれない。彼には心から甘えられるから……。

「それでは、私たちはここで」
「うん。すぐに、追いつくから」
「ああ……」
「ホントにいいのか? ゴンとキルアにはナイショで」
「ああ。2人は今1分1秒を惜しんで修行をしているからな。また会おうと伝えてくれ」
クラピカと生きると決めたものの、私には後処理が残っているのでしばらくはお別れだ。クラピカはその後処理にも付き合ってくれると言っていたけれど、そこまで迷惑はかけられない。
だから今日は、レオリオと空港までクラピカを見送りに来たのだ。

せっかく側にいると決めたのに、しばらく会えない。そう思うと、胸がキリキリと痛む。自分で選んだ道なのに、クラピカにいてほしいと思ってしまう。

「大丈夫だ。またすぐ会える」
離れがたい思いが顔に出ていたのか、穏やかに微笑むクラピカが私の頭を撫でてくれる。
「うん……」
その温かみを感じてしまって、堪えきれなくなった。クラピカの服の裾を掴む。
またすぐ会える。
それはわかっている。でも、でも……怖い。
一度離れてしまえば、もう二度と会えないことだってある。私にとって、一時の別れも十分な恐怖なのだ。

その時、私はふわりと温もりに包まれた。
心がほぐれるような安心感。
背中にクラピカの腕が回り、頭上から声が聞こえる。大丈夫、大丈夫と。
私もクラピカの背中に腕を回した。ぎゅうっと力が入る。
こうしていると全身がクラピカに包まれているみたいで安心できる。クラピカの胸に顔を押し付けて大きく息を吸い込んだ。

「見せつけてくれるねぇ」
「うふふ。クラピカの心音、出会ってから1番良い音だわ」
レオリオは呆れたように、センリツは微笑ましいというように笑う。
不器用な2人が、素直に自分の気持ちを表している。
レオリオとセンリツはその様子を見て、この2人なら大丈夫だと安堵した。


しばらくして、私とクラピカは身体を離した。

もう、時間だ。

「どうした……名前?」

しかし私はクラピカの服の裾を掴んで離さない。加えてどこかもじもじした様子にクラピカは不思議そうな表情を浮かべる。

どうしてもクラピカが発つ前に言いたいことがあった。
しかし、いざ言うとなれば緊張してしまう。
でももう時間がない。

「あ、の……クラピカ」
「どうした?」
クラピカは私の顔をじっと見つめる。私は視線を逸し、ふぅっと息を吐いた。

「す、き、だよ……」
「え……」
「好き……」
もちろん兄に対する好意ではなく、異性として、好き。
最初は兄の面影をクラピカに重ねていた。しかしいつからかクラピカ自身に惹かれていた。

クラピカの優しさが、温かさが、好きになっていた。

クラピカは呆然と私を見つめていたかと思うと、覆いかぶさるようにしてがばりと抱きついてきた。
「ん……」
息苦しいくらいに抱きしめられて、声も出せない。クラピカはというと、ぎゅっと腕に力を入れたかと思うと、はぁ……と長いため息を吐き出した。


ため息……吐かれた……。


呆れられたのだろうかと愕然とする。
いつまでも未練がましく離さないから。
でも、今私を拘束してるのはクラピカなんだけど……。

彼のため息が何を意味しているのかぐるぐると考えているうちに、背中に回る腕の力が緩くなっていた。布団にくるまれているような優しい感覚。

「ありがとう……。私も、名前のことが好きだ。ずっとこのままこうしていたいと思ってしまうほどに……」

クラピカは、聞こえるか聞こえないかといった小さな声で私の耳元にそう囁いた。

クラピカが私のことを大切に思ってくれているのはわかっていた。でもそれは、私の瞳が赤いから、失った同族と重ねているんじゃないかと心のどこかで思っていた。
最初私がクラピカと兄を重ねていたように。

でも実際にクラピカの口からその言葉を聞くと、なんだかむず痒くて身体が熱い。

初めて味わう感覚に成すすべもなく、私はただクラピカの腕の中で頷くことしかできなかった。



今はぎこちないけれど、もっと、もっと気持ちを言葉にしたい。

こんな仲間に出会えて私は本当に幸せだ。



クラピカを乗せた飛行船が飛ぶ青い空を見上げて、名前はこの空に負けない涼やかな笑顔を浮かべた。


| 

[list]
×
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -