30



アジトには人が住んでいる気配はない。しかし旅団のアジトとは違って、小綺麗に整頓、掃除されていた。
そこにリュフワらしさを感じて寒気がする。


そして、ついにマリオネットがリュフワの姿をとらえた。だだっ広い空間にリュフワはどんと構えている。

その姿を見た瞬間に、リュフワが仮面をつけていた理由を察することができた。屋敷の火事で重症を負ったのだろう。彼独特のオーラがなければリュフワだと気づくことができないほど顔が変わっていた。

「ククク……」
不意にリュフワが笑いだした。私はギョッとしてマリオネットの身を引く。本当に気味が悪い奴だ。

「どうかボクを怖がらないで。さあ、こちらにおいで」

リュフワはいやらしく口角を上げて、なにも無い空間に手を伸ばす。
私が来たことを知っている。

私はすでに、籠の中の鳥だ。

しかし私はここから反撃してみせる。リュフワという籠から逃げ出すんだ。

もう、ここまで来てしまったら行くしかない。敵陣に乗り込むことがどれほど危ないことかは承知の上だ。


マリオネットでリュフワを監視しながら一歩一歩奴に近づいていく。リュフワに動く気配はない。

私はついにアジトの中に足を踏み入れた。

次の瞬間、上からガコンという音が聞こえた。

見上げると、天井から檻が降ってきていた。
私を檻に閉じ込めてからじっくり剥製人形にするつもりなのだ。
こんな古典的な罠にかかるなんて……。
檻がゆっくりと降りてくるように感じる。が、実際には降りてくるというより重力に任せて落ちてきているのだろう。リュフワが嬉しそうに笑う姿をマリオネットがとらえた。絶望を感じ、動けない。


ドンッという衝撃が背中に当たり、私は前方に突き飛ばされた。ガシャンという音が背後で大きく鳴る。

何が起こったのか。
訳もわからず振り返ると、そこには檻に閉じ込められたゴンがいた。檻のすぐ側にはキルアが立っている。
「ゴン!キルア!どうして……!」
「えへへ、オークション会場で名前を見つけて尾けてきちゃった」
「オレたちも尾行得意なんだよね」
そう言ってキルアとゴンは笑う。
「なんで……そんな……」
私は2人に駆け寄るもそれ以上の言葉が出てこない。迷惑をかけないと決意したのに……。

「名前」
低く響くようなキルアの声に顔を上げる。

「どうせ、迷惑とかそんなこと考えてんだろ。前にオレたち言ったよな、手伝うって」
「これはオレたちの意志なんだ! 名前を助けたい、オレたちはそう思ってる!」

キルアとゴンの真っ直ぐな瞳が私に突き刺さる。

「名前もクラピカを助けたいと思ったんだろ。それと同じだよ」
そう言ってキルアは私に笑いかけた。
でも、檻に閉じ込められていたら攻撃されても反撃できないし防ぎようもない。そんな危険な目にあわせておきながらキルアたちを置いて行けない。
そんな私の考えを読んでいるのか、ゴンが私を安心させるように口を開いた。

「大丈夫だよ。これは元々名前を閉じ込めるための檻。だから中にいる人が傷つくような罠はないはずだよ」
「そうそう。それにもし攻撃されてもオレがなんとかするよ。外から檻を壊せないか試してみるし」
確かに、リュフワは私の身体に傷がつくようなことはしないだろう。キレイなままで剥製人形にしたいはず。それに、キルアがゴンを守ってくれるという安心感もある。


私は覚悟を決めるためにひとつ大きな息をついた。

「わかった……。絶対に戻ってくるから」

2人の顔を交互に見て、踵を返す。
もう絶対にダメだと思った。
だけど2人のおかげで私はこうしてリュフワと戦える。

行くしかない。
2人を無事に出すためにも私がリュフワの元に行かなければならない。


そして、私は奴が待ち構える広い空間へと足を踏み入れた。


リュフワは私の顔を見た瞬間に、あぁ……と吐息を漏らした。顔には恍惚の表情を浮かべて、両手で自身の身体を抱き身震いをする。
「ああ……名前……本物の名前だ。待っていたよ……キミのことを。幼く何にも染まっていない美しさがあるうちに保存しなければ意味がない。キミくらいの年齢だともう手遅れだと思っていたけれど……あぁ……やっぱりキミは最高だよ……!名前! キミは本当に美しい! ボクはキミが年老いていく姿なんて見たくない! キミの今ある姿のまま、その美しき形を……ボクの手で、永遠に!!」

もはや、言葉が出てこない。
足元から蛆虫が這い上がってくるような気持ち悪さに身震いし、身体ごと仰け反った。
元より話し合えるなどと思ってはいないが、この様子では言葉を交わすだけ無駄だろう。

でも、これだけは確かめなければならない。

「お前は、私の兄を覚えているか」
リュフワはすぐにああ、と声を漏らして笑みを作った。
「もちろん、覚えているよ。キミたち兄妹は揃って美しい。彼は今でもボクの最高傑作だよ」



最高傑作



その言葉を頭の中で反芻する。
目の前の男はそんな私にお構いなしに、見たいかい?と言って部屋の奥へと移動した。
数秒後、男は人間の大きさほどの箱を抱えて戻ってきた。

やめて……。

「命からがら、これだけは一緒に逃げ出したんだよ」

やめろ……。

「一番のお気に入りさ」

お兄ちゃん……!


リュフワが蓋を開けたと同時にその中を見てしまった。受け入れたくないのに、目が釘付けになって離せなかった。



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