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「お前、案外動けるんだな」
「………そうかな、さっきも動きについていくだけで精一杯だった。ハンゾーは本気でって言ってたけど、たぶん全力の80%しか出してなかった」
「かもなー。でも名前の戦いぶりにちょっと驚いたのはホントだぜ? もっとお嬢さんって感じなのかと思ってたからさ」
「それは見くびりすぎ」
私とキルアは談笑しながら森の中を進み、良さそうな洞穴を見つけて寝床を作った。あとはプレートを守りながら日が過ぎるのを待つだけだ。
薄暗い洞穴の中で私達は横に並んで座った。
「私、キルアと組んでよかった」
「え?」
「この数日でいろんなキルアを知れた。最初は冷たい人だと思ってたけど、案外子供っぽいところもある」
「それを言うなら名前の方が子供っぽいからな?」
「どこが?」
きょとんとした顔でキルアを見返すと、キルアはプッと吹き出した。
「無自覚って怖いよなー」
私は頭に疑問符を浮かべながら、笑うキルアを見つめる。
「剥製人形だとか謎の紋様だとか、オレと同じくらい変わった状況で生きてきた奴もいるんだなーって思うと親近感湧くし、もっと名前のことを知りたいと思ってる」
澄んだキルアの瞳は真っ直ぐに私に向けられている。
「名前はハンター試験が終わったら兄さんを探しに行くんだっけ?」
私は投げかけられた質問に答えられずに俯いた。
ハンターになったら……私自身はどうするべきなんだろう。
「兄を探すことに変わりはない……。けれど、それだけじゃその先を生きていけない」
「そっか。名前も迷ってるんだな。オレもこの先どうするか決まってない」
私達の間に静寂が流れる。
キルアも私も、どう生きていくべきか迷っている。
「なあ名前、その兄探し、手伝ってやってもいいよ」
「え……?」
「前に言っただろ? 手伝うって。名前の秘密も知っちゃったし今さら見て見ぬふりなんてしたくねーよ。ゴンもお前のこと心配してたぜ」
思いがけない提案に私は言葉を詰まらせた。
ハンター試験が終わっても仲間と一緒にいられることは嬉しい。
けれど、兄を探すという私事にキルア達を巻き込んでもいいのだろうか。場合によってはキルア達の身を危険に晒すことになる。
「考えさせて……」
私はそんな気の利かないことしか言えなかった。
本当はここで出会えた仲間、私を大切に思ってくれている仲間と共に旅ができたら楽しいだろうと想像を巡らす。
しかしそれは絵空事に過ぎない。
私はまだ、答えを見つけ出せていない。
『只今を持ちまして第四次試験は終了いたします。受験生の皆さんはすみやかにスタート地点へお戻りください』
四次試験の終わりを告げるアナウンスとともに、スタート地点付近で待機していた受験生たちが一斉に姿を現す。私達も6点分のプレートを持ってスタート地点へと戻った。
「あの3人遅い」
スタート地点にはすでに何人かの受験生が集まっている。
しかし、ゴン、クラピカ、レオリオの3人の姿がまだ見えないのだ。
「3人そろっていないってことは3人ともが何らかのトラブルに巻き込まれてる可能性があるな」
あと30分もすれば締め切られてしまう。
早く……早く姿を見せて……。
焦燥感でソワソワと身体が落ち着かない。
そんな私を落ち着かせるように、私の手に心地よい温もりがそっと触れた。
「だーいじょうぶだって。ゴンがこんなところでくたばってるわけないじゃん。んで、他の二人もゴンと一緒にいるなら大丈夫だ。ゴンはそういうヤツだよ」
心からゴンを信頼している思いが、触れられたキルアの手から感じられる。
「うん……」
私は森の中に目を向けた。
キルアの言うようにトラブルに巻き込まれているのだとしたら、3人ともが動けない可能性もある。
サワサワと揺れる木が、私を手招きしているようだ。
助けに行った方がいいだろうか……。
グッと手に力が入った時、森の中からこちらに向かって来る影が見えた。
「よかったー! 間に合った!」
「「ゴン!」」
私とキルアが同時に叫んだ直後、ゴンの後ろから2つの影が見えた。
「クラピカにレオリオも……!」
「ギリギリ間に合ったぜ……」
「これもゴンのおかげだ。名前とキルアも無事にプレートを集められたようだな」
よかった……。3人はボロボロだけれどちゃんと戻って来られただけでも十分だ。
1週間ぶりに仲間たちの笑顔を見ると自然と笑みが溢れた。やっぱり私はこの4人が好きだ。
私達5人はお互いの無事を確認しあって、揃って飛行船に乗った。