11
第四次試験が始まって私とキルアはしばらく歩き回っていた。相手が絞り込めていても、この島の中から対象者を見つけるのは難しい。未だ対象者を見つけられずにいることにヤキモキする。
「鬱陶しい……」
私が突然つぶやいたことにキルアは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐにまた前を向いた。
「あぁ、アイツらを見つけられないし、ずっとオレらを尾けてるやつらも目障りだよな」
キルアは周りにも聞こえるような声で呼びかけた。
「四次試験開始からずっと尾けてるけどバレバレだぜ。出てこいよ。遊ぼうぜ」
キルアの声が森に響き渡った時、微かに動揺する気配を感じた。
大した相手ではないな……。
そう思った私は相手の気配がした方へ近づいて行く。
私が近づいたことで真っ向勝負をする気になったのか、相手が姿を現した。
「やりー!」
その姿を見たキルアが指を鳴らす。
それはまさに私達が探していた三兄弟だった。
私達を尾けていた人たちが三兄弟だったとは。そりゃあ見つけられるわけがない。
「お嬢ちゃんから力づくでプレートを奪うのは気が引けるなあ。大人しくよこせば何もしないからプレートをくれねーか」
相手は威圧的な態度で遠くから私を見下ろす。
女だからと横柄な態度を取る人は肝の小さいヤツが多い。
こういう態度を取る人には一も二もなく力でねじ伏せるのみ。
私は素早く身をかがめてブーツナイフを抜き取り、相手の喉元にあてがった。
相手は一瞬の出来事について来れず冷や汗を垂らしている。
「……三兄弟の一番小さい人、何番?」
相手は口をわなわなと震わせるだけで答えない。
答えないなら奪うしかないか。
私は素早くキルアの元へ戻った。
相手は未だ固まったままだ。
「198番」
「やったじゃん。じゃあ次はオレの番ね」
私達のやり取りを見てようやくプレートを取られたことを知った相手は愕然とこちらを見ている。
キルアが三兄弟に近づくと、三兄弟はようやく動き出した。
しかしキルアに敵うはずもなく、キルアはあっけなく一人からプレートを奪ってしまった。何度見ても一瞬で変形させるあの鋭い爪には感服するばかりである。
「あー、197番か。オレってこういうカンはすげー鈍いんだよな。ねーあんたが199番?ちょーだい」
「あぁ……」
恐れをなした相手は無条件でプレートをキルアに向かって投げた。
「もう6点分集まっちゃったなー。197番のプレートどうする?」
「何かに使えるかもしれない。持っておこう」
「おっけー。それにしてもさっきの戦闘、リハビリにもならなかったんじゃねぇの?」
キルアはニヤリと笑う。
「そうだね」
「それじゃあ俺が相手になってやるよ」
突如上から聞こえてきた声に、私とキルアは身構える。
木の上から降りてきたのは坊主頭の人だった。
「よ、お前さん達197番のプレートを持ってるな?」
「あなた誰? ……197番のプレートがほしいの?」
「俺はハンゾーだ。お察しのとおり、ターゲットが197番な訳よ」
「なるほど。私達はすでに6点分持っているから無条件で渡してもいいけど……相手の力量を測っておくのも今後のためには悪くないかな」
私とハンゾーは瞬時に身構える。
「やるからには本気でな」
「もちろん」
ハンゾーは確か自らを忍者と名乗っている人だ。
忍者とは隠密行動を専門としているらしい。先程声をかけられるまで気配に気が付かなかったことがその証拠だ。
三兄弟とは比べ物にならない。本気でいかなきゃ確実に負ける……。
得意とする素早い動きでハンゾーに近づくが、彼も私の動きについてくる。同時に攻撃も繰り出してきて、私自身も避けながら動くことに精一杯だ。
このままではずっと平行線のままだ。
むしろ、体力の差から私が負ける……。
私は後方に飛び下がり間を取る。
「なんだ、もう終わりか?」
ハンゾーが口元をほころばせて素早く何かを投げてきた。それを避けながらレッグシースに手をかける。
「お?」
ハンゾーとキルアが目を奪われている内に、素早くダガーナイフを投げた。
「あたっ!!」
ナイフはハンゾーの服を木に縫い付けた。
「ははあ……こりゃ一杯食わされたな」
ハンゾーはナイフを抜き取り、こちらに投げてよこす。
「いい動きだったぜ、名前」
「ハンゾーは強い。さっき油断しなかったら負けてた」
「相手を油断させるのも勝負だ。俺の動きについて来れるなんて思ってもなかったぜ」
私は197番のプレートをハンゾーに渡した。
「それじゃあまたな! プレート奪い返されんじゃねぇぞ?」
「そっちこそ」
ハンゾーと別れた私達は、残り時間を過ごすための寝床を探すことにした。