08


「生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間」

トリックタワーの屋上でそう告げられてから1時間が経過した。

「クラピカ、レオリオ、名前」
ボソッと囁いてきたのはゴン。
「隠し扉を見つけたよ」
そう言ってゴンが指したのは5つの隠し扉だった。


「じゃあ、ここでいったんお別れだ」
私達は各々扉に入ることにした。それぞれが別々の道かもしれない。
初めは一人でハンター試験を受けに来て一人で行動していたはずなのに、少し心細いと感じる自分がいる。

「1、2の3!」

5人が一斉に扉の中に飛び込んだ。
何があるか分からない。私は身構えながら着地した。


中は薄暗いが、4人の人影が見える。
次第に暗闇に目が慣れてきて、私達はお互いに顔を見合わせ苦笑した。
「くそ〜5つの扉のどこを選んでも同じ部屋に降りるようになってやがったのかよ」


あたりを見渡したところ、この部屋には出口がないようだ。代わりに貼紙を見つけた。 

"多数決の道 君達5人はここからゴールまでの道のりを多数決で乗り越えなければならない"

「このタイマーを使って進むみたいだな」
「うん。着けよう」
私達は用意されていたタイマーをつける。すると壁が動き、ドアが現れた。

"このドアを ○→開ける ×→開けない"

いちいち多数決なのか。面倒くさい。
しかし放棄するわけにもいかず素直に従うしかない。



何回か多数決を行い、私達は広い空間に出た。その空間の真ん中に約25m四方のスペースがあり、その周りに床はなく底が見えない。

向こう側には5人の人影が見える。そのうちの一人が前に出た。
「お前達は我々5人と戦わなければならない。一対一で行い、各自1度だけしか戦えない。お前達は3勝以上すればここを通過することができる。片方が負けを認めた場合において残された方を勝者とする。この勝負を受けるなら○、受けぬなら×を押されよ」
「何ィ〜!? また採決かよ!?」
私達は全員一致で○を押した。

「いいだろう。そちらの一番手は誰だ?」

「私が行く」
肉弾戦か頭脳戦か、どんな勝負かわからないからこそ私が行くべきだ。怪我をしているとはいえ少なくとも毒味役くらいにはなれるだろう。私は、この大切な仲間の役に立ちたい。そう思って歩み出たのに、
「ダメだ!」
クラピカの大きな声に阻まれた。

「名前は怪我人だ。私達4人で3勝する。だから名前は戦うな」
「ただ見てるだけなんて嫌だ」
「レオリオも無茶はするなと言っていただろう」
「もう治ってきた。それに無茶はしない。やるだけやらせて」
「名前の性格からして相当の深手を負わない限り自ら負けを認めないだろう? それがわかっているのにむざむざ戦場に送り出すと思うのか」
私とクラピカの間に不穏な空気が流れる。

「お、おい、2人が喧嘩なんて珍しいな。大丈夫なのか…?」
「うーーん、確かに珍しいけど、名前とクラピカなら大丈夫だよ」
「まあ確かに、名前があそこまで"自分"を出して話せるのはクラピカだからかもな。それにしてもクラピカは過保護だなぁ」
レオリオとゴンがこそこそ話し合っている声はもちろん私達の耳には届いていない。


「まだ決まらないの? 一番手はぼくだ」
そうこうしているうちに片目が隠れている男が前へ歩み出た。

「相手がどういう手を出してくるのかわからないけど肉体派じゃなさそーだな」
キルアの言うとおり少なくとも殴り合いとかではなさそうだ。

「なら私が……」
「いいや、名前は休んでろ。クラピカの言うことも分かってやってくれ」
「名前! 最初はオレが行く! 任せてよ!」
ゴンとレオリオにも制止された私は渋々待機することにした。
ムスッとした顔でゴンを送り出す。

「みんな名前を心配してるんだぜ。もちろんオレもな」
レオリオにポンと肩を叩かれる。
「わかってる……」
4人で3勝という厳しい条件になろうとも私を待機させているのは私の身を案じてのことだ。
その気持ちは嬉しいしわかっているのに、こんな私を受け入れてくれたみんなの役に立ちたくて少し頑固になってしまった。


相手の提案で、先にローソクの火が消えた方が負けというゲームをすることになった。
ゴンのローソクには罠が仕掛けてあったが、ゴンの機転の利かした行動で勝つことができた。
まずは1勝。

「オレ勝ったよ!」
戻ってきたゴンは笑顔で私に報告する。
「うん。おめでとう」
笑顔で返すと、ゴンはより一層目を細めた。
「やっぱり名前は笑顔が似合うね! かわいい!」
満面の笑みでそんなことを言われ面食らった。自分が可愛いと言われる対象になることが信じられなくて何回言われても驚いてしまう。ゴンの本心だと思うと少し照れくさい。



「よし、次は私が行こう」
ゴンの次はクラピカが前へ出る。
相手は……ヒドい見た目の男だ。見た目のわりに、全然強くなさそう。2人はデスマッチをすることになり、クラピカは羽織っていた服を脱いだ。

「おいおい大丈夫かよクラピカは。ありゃ相当やばそうな相手だぜ」
「うーーーん」
「…………」

キルアはもちろん、ゴンも薄々気づいているみたいだ。
「クラピカは大丈夫」
私は真っ直ぐにクラピカを見据えたまま呟く。

しかし、予想外の出来事が起きた。
相手の背中には……蜘蛛の入れ墨が描かれていたのだ。それを見たクラピカは目を真っ赤にしてその男を殴り倒した。

クラピカは最初、私の眼が赤かったから話しかけたと言っていた。たぶん、同胞の眼を思い出したのだろう。
しかし、今のクラピカの眼の輝きは私の眼の比ではない。
思わず見惚れてしまうほど、綺麗で美しい緋色だ。

「3つ忠告しよう。1つ、本当の旅団の証にはクモの中に団員ナンバーが刻まれている。2つ、奴らは殺した人間の数なんかいちいち数えない。3つ、二度と旅団の名を語らぬことだ。さもないと私がお前を殺す」

クラピカはそう言い捨てて私達の元へ戻ってきた。


「クラピカ……」
クラピカの意外な一面を見た。大丈夫なのだろうか。
「心配をかけてすまない。あのクモを見たとたん目の前が真っ赤になって……と言うか実は普通のクモを見かけただけで逆上して性格が変わってしまうんだ」
クラピカはひどく落ち込んだ様子で座り込んだ。
「しかしそれはまだ私の中で怒りが失われていないという意味ではむしろ喜ぶべきかな……」

私がリュフワを憎んでいるように、クラピカも幻影旅団が憎いんだ。私はクラピカの前にしゃがんで頭を撫でた。
「名前……ありがとう」
クラピカは少し驚いたように顔を上げて、微かに私に笑いかけた。
「さっきはごめん。心配してくれたって、わかってる」
「いいや、名前を傷つけたくないあまり私の方こそムキになってしまった。キツイ言い方をしてすまない」

ゴンはほらねというようにレオリオに目配せした。
「よし! オレで決めるぜ!」
レオリオが勢い良く立ち上がる。

しかし相手側から異議が出た。
「まだ決着がついていないわよ。彼は気絶してるだけ」
クラピカの勝負はまだついていないから次の勝負はできないというのだ。

「これ以上敗者にムチを打つようなマネはごめんだ。私から何かする気はない」
「何ィ〜〜〜!?」
レオリオは納得がいかないようだが、結局あのヒドイ顔の男が目を覚ますまで待つことになった。



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