07
「クラピカ、起きたの?」
「あぁ……2人は何をしているんだ?」
「何って、名前と話してただけだぜ。な?」
私はコクリと頷く。
「キルア……さっき言ってたことなんだけどなんでもないから気にしないで」
「はぁ? そんなこと言われて引き下がると思ってんの?」
クラピカは私達の様子を不思議そうに見ている。
そんなクラピカを気にも留めずキルアは言葉を続ける。
「名前がどうしても話したくないなら無理には聞かない。けど、オレは名前が苦しんでる姿を見て見ぬふりをすることは出来ない」
まさかキルアにこんなことを言われるとは思ってもみなかった私は目を丸くした。
キルアも私も馴れ合うような性格ではないからどこか距離を感じていたのだけど、こんな風に心配してくれていたなんて。
距離を置いていたのは私だけだったようだ。
「分かった……クラピカもついて来て」
私達は人影のない場所へ移動した。
ここまで来たらもう話すしかない。ゴン、キルア、クラピカ、レオレオ……私はこの4人を信じている。
深呼吸をしたあと、自分の胸に手を置いて、目を閉じた。
「いつも誰かに見られている気がする……?」
キルアは怪訝そうな顔でこちらを見据えながらも辺りに注意を向ける。
「なるほど、そういうことか」
その横でクラピカは納得したという風に頷いた。
「誰が自分を監視しているのかわからない中で見極めるために一歩引いていたのだな」
私はコクリと頷く。
「遠くの方から見られている感じ。だけど敵意は感じられない。ただ私を監視しているような視線。そしてたぶん……これと関係してる」
そう言って私は襟詰めのボタンをプチプチと外す。
「名前!?」
クラピカとキルアは突然の私の行動に狼狽える。
鎖骨が見えるくらいまでボタンを開けて、するりと右肩を顕にした。
狼狽えていた2人も私の肩を見て動きが止まる。
「リュフワに引き取られてから半年くらい経ったころ、突然この紋様が肩に現れた。最初はなんだかわからなかったけれど、害もないから放置していた。けど……最近監視されているような気がして、これが関係しているんじゃないかって思うようになった」
私の肩に刻まれているのは何か得体の知れないオーラを放つ紋様。
今まではこれがそんなに重要だとは思っていなかった。
しかし、これを見たヒソカの反応が想像以上だったのだ。
この印が意味するところを知りたい。
十中八九リュフワに繋がっているはず。
私は衣服を正した。
もし2人がリュフワ側の人間だったら何をされるか分からない。そうじゃないにしても2人に話したことで相手が動き出すかもしれない。
けれどクラピカとキルアに打ち明けたことは後悔していない。
「話してくれてありがとう名前」
「オレも手伝うぜ」
クラピカは眉を下げて微笑み、キルアがニッと笑いかける。
一人で抱えていたものを打ち明け、協力してくれる仲間がいることに胸が暖かくなる。
やはり2人に話してよかった。
それでも私は喜んでばかりいられない。これは2人を、いや、ゴンとレオリオも含めた4人を私事に巻き込むということなのだ。
これからは4人の周囲も警戒しなければと考えていると、頬にそっと手が触れてピクリと肩が跳ねた。
クラピカは割れ物を扱うかのような手つきで私の頬を撫でる。
「私達のことは気にするな。名前のために協力させてくれ」
「ちぇー。いいとこ持っていくよなー」
キルアは不貞腐れたように口を尖らせる。
クラピカもキルアも私のことをこんなにも大切にしてくれている。
「キルア、クラピカ、ありがとう……」
2人とも優しすぎる。
ふと、兄の姿が脳裏をよぎった。
もう……誰も失いたくない。
私もみんなを大切に思っている。
そう思えるようになったのもみんなのおかげだ。
たからこそ私はみんなを傷つけるわけにはいかない。