06
何かに包まれているような温もりの中、ゆっくりと目を覚ます。
次第にはっきりしてゆく頭で理解したのは、私は今クラピカの肩にもたれかかっているということと、腰には彼の腕が回されているということ。
どういう状況だ、何が起きている、どうしてこうなった。
と、とりあえずクラピカが起きる前にゆっくりと抜け出そう。
クラピカの腕が私の腰を支えている時点でクラピカが意図して腕を回したということは明白なのだが、このままでは恥ずかしさで死んでしまう。
完全に目が冴えた私は飛行船の中を見て回ることにした。
しばらく歩いていると廊下の先に銀髪の少年を見つけた。
しかしその後ろ姿はいつもと様子が違っている。
なんだか殺気立っているような……。
「キルア」
私が声をかけるとキルアはワンテンポ遅れてこちらを振り向いた。
「あれ、起きてたんだ」
「キルアも。まだ飛行船の中を探検してたの?」
「まーね。ちょっとじいさんとゴンと遊んでてさ。ゴンはまだ遊んでるよ」
「そう」
少しキルアの様子に違和感を覚える。気のせいだろうか。
刺々しいというか、私を突き放すような喋り方だ。
「キルア、変」
「はぁ?」
「変だよ」
キルアに近づいて顔をまじまじと見つめる。
どこが変なのだろう。
「ちょ、名前、一旦離れろ……!」
キルアに両肩を押されて壁に押しやられた。
「お前そういうとこあるよな……。あんまこういうことすんなよ」
「………分かった」
なぜだか昨日から注意されることが多い。
私は適度に距離を置きつつキルアの様子を探ることにした。
先程の刺々しい雰囲気はなくなったが、様子がおかしいことに変わりはない。
キルアはふぅと息を吐きだして徐に口を開いた。
「オレが暗殺者でさ、人殺しのバケモノ……って言ったらどうする?」
突然の言葉に目を丸くする。
キルアがバケモノ?
突拍子もないことだけど、嘘を言っているようには見えない。
私は目を閉じた。
キルアがバケモノなんだったら、私はなんだろう……。
「キルアはバケモノじゃない……」
私はゆっくりと目を開く。
キルアは驚いたように目を大きくさせていた。
「………お前もゴンも変わってんなー。もうちょっと驚くとかねーのかよ」
不満そうな口調のわりにキルアの顔からは先程までの鋭さがなくなった。
「暗殺者なの?」
「そ、家族全員暗殺者」
そう言うキルアは真っ直ぐ私を見据える。その瞳が何かを探っているような気がして首を傾げる。
「名前、何か隠してんだろ?」
「……」
「さっきから微妙に目が泳いでる。それって名前が周りと距離を置いてることと関係してんの?」
相手を探っていたはずなのにいつの間にかこちらが探られていた。この様子だと他の3人にも気づかれているかもしれない。
思わずうつむく。
この4人がとても優しいから。この4人と一緒にいたいと思ったから。
その揺らぎが伝わっているんだ。
その時、背後から私の名を呼ぶ声が聞こえた。
「名前……」
その声はあまりにもか細くて、一瞬声の主が誰なのかわからないほどであった。
*
目を覚ますと、隣で寝ているはずの彼女がいなくなっていた。
ひどく焦ったが、まだ彼女のぬくもりが残っている。そう時間は経っていないのだろう。
彼女のことになると冷静さを失いがちだ。しっかりしなければ。
俺は立ち上がり、廊下に出る。
暫く歩いていると前方に探し人を見つけた。キルアと話し込んでいるようだ。
他を寄せ付けぬような雰囲気を出している。
俺はその光景を見た瞬間に構わず2人に歩み寄っていた。
できるだけ、冷静に。
「名前……」
しかし、自分の喉から出たものは冷静さからは程遠く、切なく彼女を求めていた。