05
2次試験では一度全員が不合格になりどうなることかと思ったが、ネテロ会長の計らいにより、新たな課題が課された。
マフタツ山の谷にあるクモワシの卵を取ってくるという試験だ。
「あーよかった」
「こーゆーのを待ってたんだよね」
「走るのやら民族料理よりよっぽど早くてわかりやすいぜ」
ゴンやレオリオがワクワクした顔で崖を見下ろす。
ここから飛び降りるのか……
「楽しそう」
私とゴンはほぼ同時に飛び降りた。
続いてキルア達も飛び降りる。
うまくクモワシの巣に捕まる。プラプラとぶら下がるのが楽しくて暫くそうしていたかったが、大人しく卵を取って岩壁をよじ登る。
レオリオとクラピカもすぐ下で岩壁をよじ登っていた。2人が何やら小声で話していると思ったら、クラピカが不意に私の名前を呼んだ。
「名前はどうしてそのような服を着ているのだ?」
「…………?」
「…………」
クラピカは珍しく言葉に詰まる。私はさぞ不思議そうな顔をしていたのだろう、クラピカは観念したように口を開いた。
「その……なぜスカートなのだ。動きにくいだろう」
なぜ今そのようなことを聞くのか、真意を測りかねていた私は数秒遅れて納得する。
「……大丈夫。中にショートパンツ履いてるから」
ペラリとスカートを捲りかけたところでクラピカに押さえられた。
「名前……! 分かったからそういうことはしないでくれ」
「……分かった」
「プッお前……ほんと名前のことになると必死だなあ」
「関係ないのだよ」
最初私に声をかけた時もそうだったが、たまにクラピカはどうしようもなく必死な時がある。
それも私のためを思ってのことだと分かると少し嬉しい。
いつしか私はクラピカに兄の影を重ねていた。
第二次試験も終わり、飛行船で第三次試験の会場へ向かうこととなった。到着予定は明日の朝8時らしい。
「ゴン! 飛行船の中探検しようぜ!」
「うん!」
「元気な奴ら……オレはとにかくぐっすり寝たいぜ」
「私もだ。おそろしく長い1日だった。名前はどうするんだ?」
「私も休憩」
私とクラピカとレオリオの3人は横に並んで睡眠をとることにした。
思っていたよりも疲れていたらしく、私は目を瞑るとすぐに眠りに落ちた。
*
「名前も大分疲れていたようだな」
「あぁ。かわいい寝顔をしてやがる」
「そのいちいちかわいいと付ける必要はあるのか」
「そんなこと言って、お前が一番名前のことを気にかけてかわいがってるくせに」
レオリオのニヤニヤ顔が目障りだが、名前のことを気にかけていることは事実。ここはぐっと堪える。
俺は下衆な気持ちで名前を気にかけているのではない。彼女の赤い眼と守らなければと思わせる雰囲気が俺をこうさせていた。
これは、同胞を守れなかった罪滅ぼしなのだろうか。彼女を守るというこの感情は自分勝手なものなのかもしれない。
そんなことを考え込んでいた俺はレオリオの声に意識を引き戻された。
「名前も最初の頃に比べるとオレらを受け入れてくれるようになったよな。口数も増えたし」
「……あぁ、しかしまだ完全に受け入れられているとは思えない。名前は感情は豊かなのだろうがそれを表現することが苦手だ。しかし名前の微かな表情の変化や動作から分かることはたくさんある。私が見たところ…いつも何かに怯えているようだ」
「何だそれ? どういうことだ?」
「わからない。周りと距離を置いているのもそれに起因していると私は思う」
「そんなに気になるなら聞いてみればいいじゃねーか。オレも気になるしよ。というかよく気づいたなーオレにはさっぱり分からなかったぜ」
「彼女を見ていれば自ずと分かることだ。お前は注意力が足りないのだよ」
「へいへい。名前様のことはクラピカに任せますよ」
レオリオは呆れたように首を振る。
「で、どうすんだ?」
「これは彼女の根幹に深く関わる事のような気がする。むやみに聞き出して名前を傷つけたくない」
「そんなこと言ってるといつまで経っても名前との深ぁい溝が埋められずに打ち解けられないまま終わるぞ。名前のこと気になるんだろ?」
レオリオの言うこともわかるが、そんなに単純な話なのだろうか?
名前にどんな秘密があったとしても、俺が彼女を遠ざけるようなことはしない。
しかし、彼女が同じ気持ちとは思えない。
名前が周りと距離を置いている理由……か。
名前のサラサラとしていて柔らかい髪をそっと撫でる。この手を離したすきに儚い彼女が消えてしまうのではないか、そんな感覚に胸が締め付けられた。