そこは、血と屍の海になっていた。
その海の真ん中に佇むヒソカは薄ら笑いを口に浮かべている。ひどく不気味で、狂気的だ。
これまでいろんな恐怖を味わってきたけれど、久しぶりに感じる身の危険に足がすくんでしまった。今のヒソカは餓えている。迂闊に近づけば死を招くこととなるだろう。
私一人で戦っても勝ち目がない……。
私は近場の草に身を潜めて周りを見渡すと、ペタリと地面に座り込むゴンの姿が見えた。彼はただ一点をじっと見つめている。
その視線の先には、これまたゴンを見つめるヒソカがいる。
どういう状況だ……?
理解できずにいると、不意にヒソカがゴンに向かって歩き始めた。
ゴンが危ない……!
そう思った私は、その後の自分の行動に自分自身でも驚いていた。
気がついたらタッと地を蹴ってヒソカとの間合いを詰めていたのだ。
ワンテンポ遅れてこちらに顔を向けたヒソカが、ニヤァっと
を裂くように口角を上げる。背筋が寒くなったが今さら引くわけにはいかない。
「「名前!?」」
クラピカとレオリオの叫び声を後ろに聞きながら、スカートの下に隠し付けているレッグシースに手をかける。
そのまま突っ込む……と見せかけて、直前で身体を回転させる。ナイフを抜き取りながらヒソカの後ろに回り込み、斬りかかった。
しかし、私の攻撃はヒソカには届かなかった。
「いい動きだ」
「っ………!!」
ヒソカが投げたトランプが足と腕をかすり、バランスを崩してしまった。
服が裂け、肩が顕になる。
「おや……?」
私は急いで肩を隠したが遅かったようだ。
ヒソカはじっと私の肩を見続けたまま何かを考えるように押し黙った。
「名前! 大丈夫か!」
駆け寄って来たクラピカによって、次のトランプ攻撃は私に当たることはなく弾かれた。
こうやって駆けつけても結局レオリオやクラピカに要らぬ心配をかけさせただけだ……。
クラピカのひどく焦った顔を見て、そう思ったのも束の間、
「てめェの相手はオレだ!」
レオリオがヒソカに殴り掛る。
身を起こして両者の動きを制止するにはあまりに短すぎた。
気がついたらレオリオはヒソカに顔面を殴られ、宙を舞っていた。
ゴンが我に返り素早く攻撃を繰り出すも、ヒソカに動きを封じられる。
「仲間を助けに来たのかい? いいコだね〜〜大丈夫殺しちゃいないよ 彼も君も合格だから それと……」
ヒソカが首をグルンと回し、こちらを向いた。
「そこの君も合格 いいハンターになりなよ」
そう言い残して、ヒソカはレオリオを担いだまま霧の中に消えていった。