as we believe in living it.




名前が王子から逃げている一方、ユズルもカシオから逃げるべく地面へと降り立っていた。
「カシオしかいないからね〜」
グレネードランチャーからシュドシュドと音を立てて放たれた弾は、樫尾の周囲にある家をも潰していく。
「ちょ、うわ!」
メテオラに加えて崩壊した家の下敷きにならないように避ける必要がある樫尾は、ダンスを踊るようにぴょんぴょんと跳ねてばかりで折角見つけたユズルを追いかけることかできずにいる。
このままでは見失ってしまうと焦りが募るも、味方の支援がないことは内線で聞いていた。

自分でなんとかするしかない。

「グラスホッパー!」
狙撃の心配がない今、宙に跳んだほうが家に潰されずに済む。メテオラが当たりやすくなるものの、その場から抜けられなくなるよりはマシだった。
メテオラが脇腹と左の二の腕をえぐる。それでも樫尾はユズルに向かって一直線に走り続け、弧月をスラリと抜くと同時に旋空弧月を放った。

「ごめんユズル」
バシュっと音を立ててユズルが緊急脱出したのを見届けた北添は、追い打ちをかけるように樫尾にメテオラを放つ。樫尾はシールドを出すも、身体のあちこちからは既にトリオンが流出していた。

北添と樫尾がラストスパートをかけようとしていた時、一人の狙撃手がその様子を静かに見ていた。
「カシオくんが先か……北添くんが先か……」
王子を撒いた名前は銃を構えスコープを覗く。樫尾は激しくトリオンが流出しており満身創痍といった様子。対して北添は無傷で今にもメテオラを放とうと銃を構え直している。
「いける、撃てる。大丈夫」
そう呟いて名前が照準を合わせた直後、北添がメテオラを放ち樫尾が緊急脱出した。
同時に、北添のトリオン器官に穴が開く。北添の的が大きくて助かった。
「油断大敵!」
その言葉を最後に北添も樫尾に続けて緊急脱出した。


『樫尾隊員に続き、北添隊員も緊急脱出! 影浦隊、茶野隊に1ptずつ入ります』
『敵が最も油断するのは、勝ちを確信したときだ、ってやつか』
『狙撃も見事だったわ。うちの隊に入らなかったのが残念ねぇ』


名前は北添を撃ったあともその場を去らず、茶野たちが戦っている方向に銃口を向ける。正しくは、追いかけてきた王子に。
王子の背後からは、すでに心強い味方が一人忍び寄っている。

「ナイス、藤沢くん」

名前は躊躇いなく弾を撃った。さすがに不意打ちではないためライトニングであってもシールドで守られてしまったが、直後藤沢の銃が王子を狙う。

しかし、その追撃は失敗に終わった。

「うちの隊員が一人落としてくれて助かったよ」

まるで藤沢だったら余裕で倒せると言わんばかりの発言に、藤沢はムッと顔を歪める。
茶野と藤沢は蔵内を落としたが、茶野もトリオン漏出過多で緊急脱出してしまった。藤沢の存在を明かしてしまった今、王子との距離が近い上に名前と比べて弱い藤沢を先に倒そうとすることは明白だった。
つまり名前のサポートがあるとはいえ藤沢と王子の対決になる。

藤沢はぐっと唇を結び、銃を構え直す。

藤沢の予想通り、王子は名前に背を向け藤沢に向かって走り出した。
「私もいるんだけど、ね!」
藤沢が引きつけている間に名前ももう一度王子を撃ち、藤沢も同時に引き金を引く。王子はそれを予想していたのか、シールド2枚でそれぞれを防ぐ。
「おっと、」
しかし、アステロイドを撃つ前に放っていたハウンドの攻撃は防ぎきれておらず、王子の腕からトリトンが流れ出ていた。
背後からの名前の攻撃と、藤沢のハウンドとアステロイド。3点からの攻撃を同時に防ぐことはできなかった。

自分で考えた戦術で王子に攻撃を与えられたことに、藤沢の心に火がついた。まだ戦いたい。いろんな攻撃を出して通用するか試したい。
しかし、敵の刃はすぐそこまで迫ってきていた。

「ごめん藤沢くん!」

なぜ名前が謝るのかとか、もっと戦っていたかったとか、いろいろな感情がないまぜになる中、藤沢は次の瞬間には緊急脱出した。


その直後、跳び退いた名前の背後からグニャリと曲がった刃が姿を見せる。
「ぜんっぜん戦えてねえ!」
ろくに戦えておらずフラストレーションが溜まりまくった影浦が大声で叫びながら名前に斬りかかる。
影浦が背後から来ていることが分かっていた名前は、最後の射撃で手元が狂ってしまった。
大事な後輩が目の前で倒れるのは、いつまで経っても慣れるものではない。

「やっぱり、こうなる運命だったのかな」
「はぁ?」

名前と影浦と王子。噂の渦中にあるその3人が残ってしまったのは神の悪戯か。

名前はバッグワームとライトニングを解除し、スコーピオンを構える。
「はっ、お前それで勝てると思ってんのかよ」
影浦はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、マンティスで名前を貫く。
「やってみなきゃわかんないから!」
しかし名前はそれをシールドで防ぎ、影浦と同じように笑みを浮かべた。
「影浦くんにはこれが一番効果的だよね?」
そう呟き、名前はありったけの感情を込めて影浦に斬りかかった。
「おめーどんな感情で攻撃してきてんだよ!」
「ふふふ、私のこの気持ちには愛情しかないよ」
攻撃する意思をカモフラージュするために、名前は影浦の頭を撫で回してかわいがってやるつもりで攻撃を仕掛ける。私が対峙しているのは年下の男の子ではなく私よりも強くて立派な男の子だ。私が彼に向けているのは刃ではなく少々重めの愛情だ。そう自分に言い聞かせている今の頭の中を誰かに見られでもしたら顔から火がでるほど恥ずかしい。特に年下のかわいい後輩たちには絶対に知られたくない馬鹿げた戦い方だが、実際のところ影浦は戦いづらそうにしており効果的であることがわかる。彼のサイドエフェクトを逆手に取ったこの戦い方は、彼にとってはとても嫌な戦い方だろう。
名前も自身のサイドエフェクトには苦しめられることのほうが多いから、気持ちはわからないでもない。
彼の気持ちがわかっているのに彼が辛いであろう戦い方をするなんて外道だと思いながらも、彼へ惜しみない愛を注ぐ。

「シールド!」
一進一退の攻防を繰り広げる二人に、ハウンドが降り注ぐ。
「ミャンヌの元まで来るのに随分かかっちゃったな」
ハウンドを放った王子はいつもと変わらない微笑を湛えて名前と影浦の前に姿を現した。


『さあ、この試合も最終局面となりました。各隊が一人ずつ残り、三つ巴の戦いです』
『名前が一番嫌がりそうな展開で笑えるわ』
『今までの動きからして王子くんはきっと名前ちゃんと戦いたいはず。ただ影浦くんがそれを許してくれるかしら。名前ちゃんはきっと、どちらかが動き出すのを待ってるんでしょうね』
『ここまですべての隊が2ポイントずつ取得。この勝負に各隊の命運がかかっています』


王子の登場に、影浦、名前は手を止めた。三人は睨み合う。誰も視線を逸らすことはない一触即発の空気に名前は固唾を呑む。


「チッ」
最初に動き出したのは影浦だった。舌打ちをしながら両手のマンティスで王子に狙いを定め、王子はそれをシールドでガードしながらハウンドで応戦する。一方名前は影浦と一時共闘するように、スコーピオンで王子に斬りかかった。

「へえ。ミャンヌはぼくを狙うんだ」
名前は変わらず王子を攻撃しながら、ぐっと唇を引き結ぶ。状況的には有利であるはずのその顔は苦しげにも見える。
三人の激しい攻防が続く中、王子の顔が注視していないと見逃してしまうほど僅かに渋面に満ちていく。
二人を相手するのはさすがに苦しいのだろう。うち一人は隊務規定違反による減点がなければ個人ポイント上位の攻撃手だ。

しかし王子も粘り強さを見せていた。
あえて影浦にハウンドで攻撃し、シールドを出させる。その隙に名前へ近づき弧月を払う。あくまでも王子の狙いは名前だった。

「そんなに私を倒したいの」
「そうだね。誰かに倒されるくらいならぼくが倒したいかな」

なんとも反応しづらい返答に名前の顔が歪む。王子のそれは、冗談なのか本気なのかわからないからある意味怖くもある。本気にしてしまって馬鹿を見るのは自分ではないかと怯えている自分に嫌気がさす。


そして、王子の顔から笑顔が消えた。

「ぼくを狙うのは彼の味方をしたくなったからなのかい?」
シールドもすべて解き、真っ直ぐ名前に向かって突き進む。
「それともぼくが厄介だと思ったからか……。後者だと嬉しいね」
最後に薄く微笑みながら、旋空弧月で名前を斬った。

王子は刀を抜いた姿勢のまま、背後からのマンティスを防ぐためにシールドを張る。シールドを外したのは旋空弧月を放った一瞬だったが、王子の身体からはトリオンが流れ出ていた。
振り返ると影浦とバチリと目があった。
その顔はいつもより苛立っているように見える。

「これで終ぇだ」

しかし顔と反して至極冷静にスコーピオンを操り、シールドの隙間をかいくぐって王子の利き腕を斬り落とした。

血が上っているように見えたが、逆に頭が冴えているのか。
王子は影浦から距離を取り、ハウンドを様々な角度から放つ。
まだ暴れたりないといった動機で苛立っているのかと思ったが、違うのかもしれない。いつも名前を避けているようだったからその気はないのかと思っていたが、案外わかりにくい男だと王子は場違いにも思いっきり笑いたい気分だった。

王子は影浦を正面に捉え、不敵な笑みを漏らす。

「ハウンド」
「オラァ!」

特に何を言うでもなく、二人は同時に攻撃を出す。
シールド1枚では防ぎきれない量のトリオンが影浦を襲い、王子の身体がピキピキとひび割れる。王子は残り僅かなトリオンのほとんどを使いハウンドを撃った。
いつもの戦い方とは程遠い捨て身の攻撃。影浦のサイドエフェクトは、その覚悟をひしひしと受信していた。案外骨のある男だと、目の前の男の評価を改める。影浦から見た王子は、ボロボロになりながらも最後まで芯の通った目をしていた。





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