「重い重い重い」
休息スペースの机に向かって黙々と書類仕事を片付けていると、ふと背中が重くなる。ハラリと垂れる薄茶色の髪が目の端に映り、誰の仕業か合点がいった。まあこんなことするのは一人くらいしか思い当たらないけれど。
重いと訴えると、背もたれがないのをいいことにより体重をかけてくる。
「うお、」
遠慮というものを知らない彼は、女の子の背中に覆いかぶさり全体重をかけてくる。おかげで書類とキスしそうになったじゃないか。
「菊池原くん、あとにして」
そう短く返して身体を起こし、再び書類に視線を落とす。
「え……反応が薄すぎるんだけど」
「どんなオーバーリアクション求めてたの?」
書類を捌く手を動かしながらふふふと笑うと、お気に召さなかったらしい彼が唇を尖らせてぶつぶつと文句を垂れ始めた。
名前さん空いてる時間ほとんどないし、とか、そもそもこれ名前さんの仕事じゃないじゃん、とかほとんど独り言のようなそれを、はいはいと受け流す。
えーと、これを合わせてあと20枚くらいかな。
面倒くさい書類仕事の終わりが見えてきて意気込んだその時だった。
微かに背中を撫でられたような感覚。一瞬のことだったので気のせいだと思ったのだが、再びさわさわとこそばゆい感触がありそれが意図的なものだと理解した。
あともう少しで終わるというのもあって我慢しようとしたのだが、触れるか触れないかくらいの手つきがどうにもくすぐったい。
「ふっ……」
ああ、ダメだ我慢できなかった。閉じた唇から漏れた笑いが休憩スペースに響く。
「名前さん……心臓の音隠せてませんよ……?」
擦られていた背中に、静かに菊池原のキスが落とされる。
ビクリと肩を振るわせて振り返ると、眉尻を下げてなんとも不安そうに名前を見上げる彼がいた。
心臓の音まで聞けるのに、どうしてこんなに自信がなさそうなんだろう。
ああもう、こうして今日も彼のペースに飲み込まれるのだ。
残りわずかの書類を机の端に置き、まだ唇を尖らせている彼を安心させるように優しく頭を撫でた。
背中 確認