嵐山はボーダーの顔だ。
愛想が良くて腕っぷしが強く、顔が良い。血眼になって探しても、これといった欠点が見つからないほど非の打ち所がない完璧人間、と思われている。
しかし恋愛においてはどうだろう。
人となりが良すぎて友達止まりという関係しか想像できないのは私だけだろうか。彼がその気になればおそらく今すぐにでも彼女ができるのだろうが、彼がその気になるところを想像できない。
もし万が一そういう感情があったとしても、気さくに話せる同期であり同級生である私は、その対象には入らないだろうと昨日までの私は思っていた。
「名前、顔上げて」
嵐山の声はこんなに優しかっただろうか。
返事を渋っていると、彼の手がそっと名前の頬を包み込む。
彼の手はこんなに熱っぽかっただろうか。
彼に促されるようにしてゆっくりと顔を上げると、愛しいものを見るように目を細めた嵐山がいる。
彼の顔はこんなに色っぽかっただろうか。
うるさいくらいに鳴る心臓の音が、目の前の男に届いてはいないだろうか。
まるで別人のような彼の端正な顔がゆっくりと近づいてきて、名前は静かに目を瞑った。
直後に、唇に柔らかくて熱い感触。
触れ合っただけのキスだが、名前の顔は隠しようもないほど熱い。
ゆっくりと瞼を開けると、目を大きく見開いて名前を凝視する嵐山と視線が合いぎょっとした。
「本当にかわいいな、名前は」
大真面目な顔で呟くものだから、名前もどう反応すればいいのかわからない。ただ羞恥心だけが募っていく名前を他所に、嵐山はにこりと悪意の無い笑みを零す。
「好きだ、名前」
「ん……」
にこっと爽やかな笑みを浮かべる嵐山は、やはり非の打ち所がないほど完璧だった。
唇 愛情