「痛っ」
紙の端が指の腹を滑り、鋭い痛みが走る。嫌な予感がしてじっと指先を見ていると、ぷくりと赤い血が滲み出る。
「大丈夫ですか」
名前の声を聞いた荒船が駆け寄ってくる。
「大丈夫。指切っただけだから」
そんなに大袈裟なことではない。紙で切った傷って地味に痛いんだよねーと笑いながら、血を洗い流そうと立ち上がると、その手を荒船に掴まれた。
荒船はじっと傷口を見て名前の手を引っ張る。
「だ、大丈夫だから、荒船くんは戻ってて」
「…………」
ただでさえ帽子のつばで表情が見えにくいのに、黙り込まれたら何を考えているのか読めない。手を掴む力が強い気がして、ここは大人しく従っておこうと名前は彼に引っ張られることに甘んじる。
荒船が水道の蛇口を捻り、出てきた水で傷口を洗い流す。幸いにも切り傷は浅かったようで、もう血は出てこないようだ。
「絆創膏も貼っておきましょう」
「あ、うん」
すごく面倒見のいい荒船に流されるようにして絆創膏まで貼ってもらうことになった。荒船は有無を言わさず名前をソファに座らせ、棚の奥から救急セットを取り出し戻ってくる。ここ一応私の部屋なんだけど、よく救急セットの場所わかったね。
いつの間に把握していたんだろう、とその視野の広さに感心している内に名前の指にはしっかりと絆創膏が巻かれていた。
「何から何までありがとう。もう大丈夫だよ」
「はい」
名前はにこりと笑い作業を再開しようとしたのだが、荒船は名前の手を離す気配がない。
さっきまでの強引な手つきとは打って変わって、壊れ物を扱うかのように掴む名前の手をじっと見つめる。
「荒船くん?」
どうしたのかと首を傾げた時、荒船の唇が名前の手のひらにスタンプのように押し付けられた。
「綺麗な手なんですから、大事にしてください」
「え、あ、はい」
帽子のつばから覗く荒船の目は、愛しいものを見る時のように優しく細められていた。
手のひら 懇願