私は今ものすごい既視感を覚えながら冷や汗を流している。知っている、私はこの感覚を知っているぞ。異なるのはあの時とは違って背筋が凍るような恐怖を感じて心臓がドキドキと飛び出しそうになっていることか。
そう、風間さんにこうして迫られた時は高揚感から心臓が高鳴っていたのだ。
そして、あのときと同じように名前はトンと壁に背をつく。
あ、終わった。
これ前の時も思ったな。
「名前ちゃん、迅にキスさせたそうじゃん」
「そ、そうですね……あはは……」
スリル満点の壁ドンに胸の高鳴りを抑えられないよ! 誰か助けて! 顔をそむけて、眼前に迫る太刀川を思いっきり避ける。
「水臭いなあ名前ちゃん」
「ひいい」
耳元で囁かれ思わず目を瞑る。無駄に良い声を出さないでほしい。というか太刀川さんの鼻息がちょっとずつ荒くなってきているのは気のせいだろうか。気のせいにしたい。
壁に置いている手がゆっくりと胸元に移動する。
「俺、名前ちゃんのこと結構本気だよ」
「っ……!」
耳元でそう囁きながら胸元の手がふに、と動いた。待て待て待て、その動きは非常にまずい。それ以上はさすがに冗談じゃ済まされない領域だ……。
「だからさ、柄じゃないけど大事にしたいとも思っちゃうわけ」
やけに優しい声の太刀川は、胸に手を添えたままその膨らみにキスを落とす。
声だけじゃなくて、その手付きも、キスも、上げた顔に浮かんでいた笑顔も、全てが柔らかくて一瞬息をするのを忘れてしまった。
「いや名前ちゃんその顔は反則だわ」
しかしそれも一瞬のことで、意地悪くニヤリと笑った太刀川の手が再び胸を揉みしだく。しかも今度は両手で。
バチンと激しい音が一つ響いたあとには、仰向けになった太刀川がやけに満足げな顔で横たわっていた。
胸 所有