いたずらサンタ


夢を見た。
ふさふさで、温かくて、動物を思わせるようなものを抱きしめている夢。

自分と大きさが変わらないこんなに大きな動物と触れ合うのはいつぶりだろうか!私はその生き物をぎゅーっと抱きしめた。
それはもう日頃の動物ロスを発散するかのように。

私が抱きしめたことでその生き物が暴れ始めた。きつく抱きしめすぎただろうか…
暴れ方がなんだか人間っぽい。


というかこれは人間では……?


そこで私の頭は覚醒した。

夢ではなかった。
紛れもなく現実で、私はそれはそれは大事そうに人間を抱きしめていたのだ。

「……ぷはっ、もー苗字ちゃん、オレを絞め殺す気?それともそんなにオレが恋しかったのかな?」
私の腕の中で彼がにししっと笑う。


ワンテンポ遅れて、私はベッドを飛び降りた。

「な、なんで!?どういうこと!?ですか!?」
「なんでって…良い子にはサンタさんからクリスマスプレゼントがあるんだよ!」
「はい?」

じゃーんと言って王馬くんが取り出したのはテディベア。

「メリークリスマス、苗字ちゃん!」
「え………サプライズプレゼント…?もらっていいんですか…?」
まさか王馬くんがテディベアを用意してくれているとは。前に私がカジノでテディベアを見ていたことを覚えていてくれたのだろうか。
それにこのテディベアにはリボンがついていて他の物より一層可愛い。
これは予想外だ。嬉しい…。


起きた時は驚いたけど、つまらなくないことが好きな王馬くんらしいクリスマスプレゼントに心を踊らせて手を伸ばす。

「ダメだよ」
しかし私がテディベアに触れる前に、王馬くんはそれを身体の後ろに隠した。

「良い子にはって言ったよね?」
「少なくとも王馬くんよりは良い子です!」
「そんな破廉恥な子が良い子なの?」
王馬くんはニヤニヤしながら近づいてくる。
息がかかりそうなほど近くまで来た時、太ももをツツツと撫でられた。

「!?!?」
「大胆だな~苗字ちゃんは」

そうだ…私、今ブラウスとパンツしか身に着けていない………。


王馬くんに布団を投げて大急ぎで着替えた私は、彼と一緒に部屋を出た。
自分の不注意だったとはいえ朝からどっと疲れた。


しかし、クリスマス色に飾り付けられた食堂に入った瞬間、そんな疲れも吹っ飛んだ。
いつもの食堂の面影がない、立派なパーティー会場だ。

「おはよう!苗字さん、王馬くん!」
「おはようございます、赤松さん。この飾り付けを見ているだけでワクワクしてきますね」
私はキラキラと輝くクリスマスツリーに手を伸ばす。
みんなでツリーや食堂を飾り付けた過程も楽しかったが、これから行われるクリスマスパーティに心を躍らせる。

「さあ、昨日言っていたとおり、女子だけでパーティの食事を作りましょう!男死は死んでも来ないでください!」
茶柱さんが張り切って厨房へ入る。

「東条さん、メイン料理で手一杯かと思いますがケーキ作りの指導もお願いします」
「ええ、もちろんよ。あなたの依頼なら喜んで承るわ」
「ありがとうございます…」
ケーキ作りとメイン料理作りに分かれて、東条さんを中心に女子だけで料理を作るのだ。


普段お菓子なんて作らない私は東条さんと赤松さんに頼りつつ、なんとかケーキを作り上げた。
「わぁ…!ケーキなんて初めて作りました!食べるのが楽しみです!」

私達は出来上がった料理を食堂へ運ぶ。
男子達はお菓子や食器の準備をして待ってくれていた。


「おぉーっ!神ってるー!」
そう言ってアンジーさんは料理をひょいっと口の中に放り込んだ。
「あ、もう食べちゃうんだ…」
白銀さんが困ったように笑う。
「いいんじゃないですか?もう食べ始めている人もいるみたいですし」
お菓子を作っている最中から食べていたけどね。
そう思いながら夢野さんを見る。
彼女はこの世の幸せを体現したような表情で料理を頬張っていた。小動物みたいで可愛らしい。


各々好き勝手に料理をつまみ始めるこの感じも私達らしい。
私も期待に胸を膨らませながら自分で作ったケーキを切り分けた。

「苗字ちゃん、はいどうぞ」
王馬くんがフォークを差し出してくれた…!
これがクリスマスパワーだろうか?
王馬くんのような騒がしいいたずら常習犯でもクリスマスには良い子になるのだろうか?

「ありがとうございます…!」
意味の分からない感動に浸りながらフォークを受け取り、ケーキを掬う。

口に運ぼうとした時、ガシッと腕を掴まれた。

「苗字ちゃんは良い子だよね?」
わけがわかっていない私は目を丸くしてただ王馬くんを凝視する。

「あーーん」
そう言って王馬くんが口を開けた時、ようやく彼の意図するところを理解できた。
「えっこんなところで…」
私はつい顔を赤くしてあたりを見回す。
「いいじゃん、してあげたら」
赤松さんがニヤニヤと私を見つめる。
恥ずかしいけど…テディベアのため…!

意を決した私はフォークに乗せたケーキを王馬くんの口元まで運ぶ。
子どもにご飯をあげていると思えば案外恥ずかしくないかもしれない。自分にそう言い聞かせる。

「あ、あーん…です」

パクリと自分の手からケーキを食べる王馬くんの姿に少しキュンとしてしまったことは誰にも言えない。

「美味しいですか…?」
一応自分もケーキ作りに参加したから味の良し悪しは気になるところだ。
「すっごく美味しいよ!さすが東条ちゃん監修の元作っただけあるねー!」
「私もお手伝いしたのですが…」
まあほとんど東条さんのおかげなのだが。
それでも美味しいと言ってもらえて安心した私はホッと顔を綻ばさせた。

「目に余るのぉ」
夢野さんの言葉で我に返った私はとたんに恥ずかしくなる。しかしそんな私達を見る周りの目も、みんなどこか浮かれている今日はいつもより暖かい。

「一口もらい!」
百田くんが春川さんの食べかけの料理を摘んで口に放り込む。美味しそうなそれは春川さんが一生懸命に作っていたものだ。
「あっ…百田!?」
「うまいなあ!これハルマキがつくったのか?」
ニコニコと話しかける百田くんにたじろぐ春川さん。見ているだけで微笑ましい光景だ。



暫くして、そろそろみんな落ち着いてきた頃かな、と思った私はプレゼントを持って東条さんに近づいた。彼女の手が空いていればもう始めてもいい頃かもしれない。
「そろそろプレゼント交換を始めますか?」
「そうね。椅子の準備をするわ」
「あ、私も手伝いますよ」
椅子を並べ始めた私達を見てみんなが各々のプレゼントを持って集まってくる。

音楽に合わせてプレゼント交換を行うのだ。みんなが何を持って来たのか楽しみだ。

「よーし!OK、キー坊。音楽かけて。」
「僕はスマートスピーカーじゃありません!」
そんなキーボくんの言葉に反して、キーボくんの身体からクリスマスソングが流れ始めた。
「今朝のメンテナンスで俺様が新機能を搭載してやったぞ!」
「そんなあ…」
けけけと笑う入間さんを見てキーボくんは愕然と落ち込む。
たぶん王馬くんが指図したんだろうな…と私は苦笑する。

「苗字ちゃんはこっち!」
なぜか王馬くんに席を指定されたが、特に逆らう理由もないのでその席に座る。

音楽に合わせてプレゼントを回していく。途中、王馬くんがキーボくんにちょっかいを出したりしてプレゼントが停滞したりしたのだが不意に音楽が止まり、私は袋に入ったフワフワのプレゼントを手に入れた。

袋の外側から中身の形を確認した時、その感触、重さにドクンと心臓が脈打った。

私はこの中身を知っている…
早まる気持ちを抑えてプレゼントの封を開ける。

中から出てきたのは…


「王馬くんの、テディベア…」
見覚えのあるリボンがついた可愛らしいテディベア。
思わず私はそのテディベアに顔を埋めて抱きしめた。

「にしし。良い子の苗字ちゃんは、ちゃんとサンタさんからクリスマスプレゼントを貰えたみたいだね」
いつの間にか目の前には、いたずらサンタさんが笑顔で立っていた。
「はい…!ありがとうございます」
私はニヤけを抑えきれない満面の笑みでテディベアを抱きしめた。




*




苗字ちゃんは想像以上に喜んでくれたみたいだ。
苗字ちゃんが満面の笑みで喜ぶ姿は、大好きなおもちゃを与えられた子どもみたいに無邪気で愛くるしい。
いつもどこか遠慮がちな彼女の、着飾らない素の可愛さをもっと見ていたい欲望を抑えて、自分が手に入れたプレゼントに目を移す。

「オレのプレゼントは誰からのかなー?」
苗字ちゃんの興味を隠しきれない視線を受けながら箱を開けた。




…………は?


「性なる夜に寂しい男が欲しがりそうなモンを持ってきてやったぜ!俺様に有難く感謝しろ!」
「へぇー入間ちゃんのプレゼントかあ。なかなかつまらなくなさそうなラインナップだね!」

そう言いながら少し不安げな表情でこちらを見上げる苗字ちゃんを見た。
オレのいつもとは違う視線を感じて、身を固くする苗字ちゃんにオレはニッコリ笑いかけた。


良い子の苗字ちゃんをもっと楽しませてあげたいなー!なんたって今日は楽しいクリスマスだからね!




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