王馬に嫉妬される


"好きなタイプは?"

高校生にありがちな話題の一つだ。多感なお年頃である私たち高校生は放課後の教室やファミレスで、皆であーだこーだ言い合って盛り上がるものだろう。
その環境が閉じ込められた施設の食堂であってもその話題になることはある。

「好きな……タイプ……」

しかし私は、1分前にこう呟いたきり、眉間にシワを寄せてだんまりを決め込んでいる。1分の沈黙というのは結構長いもので、質問してきた白銀さんやその場に偶然居合わせた王馬くんまで痺れを切らし始めているのが分かる。ちなみに王馬くんは隣でやいやい茶々を入れてきているのだが完全に無視である。
恥ずかしいから答えられない、なんて可愛い理由ではなく、"私の好きなタイプとはなんぞや"と考えているうちに深みにハマってしまったのだ。

「ほら、容姿とか性格とかない? 一緒にいて楽しい人、とかさ!」
とうとう痺れを切らした白銀さんが私に詰め寄った。白銀さんの言葉を聞いて、ふむ、と顎に手を当てる。
「確かに、つまらない人は好きにならないかな」
なるほど消去法で考えればいいのかと一人納得する。考え方がわかったならこっちのものだと、"好きなタイプ"を頭の中で組み立てる。性格の次は容姿についてだろう。

「なら、顔もある程度良い方がいいな。私がB専でなければ……」
「どんな!? 美形系!? 男らしい系!? かわいい系!?」
ようやくそれらしい反応を見せた私に白銀さんが食いつく。要するに良い顔と言っても人それぞれな訳で、どういった顔が私にとって良い顔かどうかということだろう。
また考え込んでしまった私の代わりに王馬くんが答えを導き出す。
「名字ちゃんは女の子も引くほどの面食いだよ」
「え、そうなんだ」
「名字さん自分のことだよね!?」
隣でにししと笑う男を見ながら考える。私が思う良い顔。王馬くんをじっと見ていると、彼もまたいつもの嘘くさい笑顔を浮かべたまま私を見返す。
彼の大きな瞳を見ていると、ハッと何かが閃いた。そんな私の様子を見た白銀さんが、顔を紅潮させてゴクリとツバを飲む。


「最原くんって、顔キレイだよね」


ズコーっと関西の芸人並みにズッコケる白銀さん。王馬くんは笑顔を貼り付けたままだ。
「いや、そこは、そこはさ……!」
何か言いたいけど言えない。そんなふうに口をもごもごとさせる白銀さんに首を傾げる。

「この前王馬くんのイタズラに付き合って最原くんにドッキリを仕掛けた時、顔が青ざめて今にも泣き出しそうな顔をしてたんだけど、そのビックリした顔もキレイだったなあと思い出して」
「ええー、名字ちゃんあの時そんなこと思ってたの?」
「人が驚く顔を見てキレイだと思うなんて名字さんも地味に大概だよね」
「えへ、そうかな」
「名字さんの照れポイントがわからない!」
嘆く白銀さんに被せるように王馬くんが「ねえねえ」と目と鼻の先に顔を近づけてくる。あどけなさの残るその顔を真正面から見返しながら、平気で他人のパーソナルスペースに侵入してくる彼の行動も今となっては気にならなくなったなと考える。

「名字ちゃんは最原ちゃんみたいな根暗でムッツリで女の子のリードもできないような人が好きなの?」
「地味にヒドイ」
ポツリと呟かれた白銀さんの言葉に頷きつつ最原くんの名誉のためにも反論する。
「裏を返せば、思慮深くて、恥ずかしがり屋で、女の子に合わせてくれるってことだよね。素敵だと思うよ。優しそうで」
自分で言いながら、最原くんってそう思えば魅力的な人かもしれないと自身の発言に納得する。

だから、王馬くんの目が鋭く光ったのを見逃してしまった。

「ふーん。オレ、他人のウソ大嫌いなんだよね」
「……ウソ、吐いてないけど」
あまりにも身に覚えのない言いがかりに、キョトンと王馬くんを見る。彼は座っていた椅子から立ち上がり、私の背後に回った。その間にも彼の口からは雄弁に私の知らない名字名前像が語られる。
「名字ちゃんは最原ちゃんを魅力的に思ってるわけないよ。だって名字ちゃんの好きなタイプってそんなイモみたいな人じゃないからね」
「だったらどんな人なの?」

ここまで確信を持っているなんて、逆に嘘くさい。だけど、語尾に「ホントだよ」とついてもおかしくない気もする。私も知らない私の好きなタイプを彼が知っているはずがないのだが、王馬くんがこういう予想もつかないことを言う時は、大抵面白いことを企んでいる時だ。
ならば、真実か否かは置いておいて彼に乗っかるのが吉だろう。

私の背後に回った王馬くんに振り向こうとした時、両肩に手を置かれた。突然のことに動きを止めた次の瞬間には、ふわりと王馬くんの癖っ毛が私の首筋を擽る。

「だって名字ちゃんが好きなのは、こうやって名字ちゃんをドキドキさせられる人だからね」

耳元で、王馬くんの声が私の鼓膜を震わせる。囁かれたその声は、聞いたこともないほど妖艶で、私の身体を硬直させるには十分だった。




ゴンッと大きな音がした後、白銀さんの悲鳴。
何事かと大慌てで食堂の扉を開けると、そこには「名字さんノックアウト! リア充は末永く爆発しろ!」と叫ぶ白銀さんと、手を頭の後ろで組んで楽しそうに笑う王馬くん。そして一番目を惹いたのは、机に顔を突っ伏した名字さんだった。
「何があったの!?」
「最原ちゃん。にしし、ちょーっと名字ちゃんを突いたら倒れちゃった」
「……はあ?」
王馬くんに突かれて頭を打ち付けたのだろうか?いやしかし王馬くんのことだからウソという可能性も……。
あれこれ頭を巡らせるも、まずは彼女の安全確認だと名字さんを見る。
その耳は、遠くからでもわかるほど真っ赤に染まっていた。





***




王馬に嫉妬されるというリクエストと、最原に対抗心を燃やして夢主をオトそうとするというリクエストでした!

オトそうとするというか、オチました。
そして最原くんごめんなさい。
この度は素敵なリクエストありがとうございました!



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