淑女のレッテル | ナノ
shukujo no retteru | ナノ

 準決勝で負けた。 その事実が悲しくて涙がまた溢れてきた。 そろそろ戻らなきゃいけないのは分かっている。 監督だって怒るだろうし、 岡村に心配をかけてしまうし、 福井にも呆れられちゃう。 他の後輩やメンバーにも心配かけて、 よく考えたら最低なマネージャーじゃないか。


「此処に居たか」

「おか、 むら、 」


 溜め息を付きながらでかい図体をした彼が言う。 皆が心配している。 私は泣き止めずに分かっているとしか返せない。
 岡村は、 怪我をしてバスケを諦めていた幼なじみの自分にマネージャーを奨めてきた。 そしてマネージャーになり彼等のサポートをしてきた。 始めは明らかに女子とは違う彼等に戸惑いはあったけれど段々と慣れていった。 そして今年、 三年になり私はマネージャーとしての風格もしっかりしたものになり彼等の仲間になれたと思った。
 しかし、 そう思うのは私だけだったみたいで。 彼等と私には必ず壁があったような、 何処か一戦を引かれているようだと気付いた。 自分の身体にある物が憎い、 彼等にはあり自分には無い、 という現実が壁を作っていたのだと思った。


「私は、 女だ、 し、 皆っとは、 違う」

「当たり前じゃろが」

「だか、 ら全然、 力に、 なんかなれなくて、 悔しくて、 」

「あれくらい頑張っとるのに何を言ってる」


 頑張ってなんかないよ、 私は当たり前の事をしてきたのだから。 まだボロボロ涙を零している私に行くぞ、 と言って皆の居る所に歩いていく。
 岡村は、 昔からそうだ。 何時だって私の少し先を歩いていく。 今日の敗戦だって私より先に乗り越えていくのだろう。 私はその後をついていくので精一杯で、 想いさえも伝えられやしない。
 私はTシャツに滲む汗を煩わしいと感じた。 岡村の後ろをついていった時にまた斜陽が突き刺した。 じりじりとした暑い中、 私達の高校最後の夏が終わる音がしたような気がした。 拭いきれずに頬を伝った涙が、 地面の色を変えた後に消えた。 鼻を付いていた夏の匂いさえ涙と一緒に落ちてしまった様で何の匂いもしなかった。


夏の匂いさえも死んだ
20120815 ラスト・サマー・ライラック