鬼が笑う
私はしがない真選組の女中だ。特に美人!やばい!惚れる!みたいな容姿をしているわけではないし、性格も別に良くはないと思う。朝、まだ日が昇りかけの時間に化粧台の前に立つと、なんだか冴えない顔をしているな、と笑ってしまうくらい普通だ。
コンタクトをつけて、化粧水を塗って…やっていることは昔とあまり変わらないのに、なんだかおばさんになった感じがして苦笑した。こんなおばさんじゃ、あいつも見捨てるわけだわ、なんて。
化粧を済ませて着物に袖を通す。しゅるしゅると布が擦れる音が響いた。これから立つのも厨房だけど、将来的には自分の店の厨房に立ちたい。
すごく狭いキッチンでもいい。最低でもコンロは三つ口がいいなぁ。一人で立つのがやっとで、私がキッチン、バイトさん雇って、接客手伝ってもらおう。
カウンターはL字になってて、料理しながらお客さんと「最近どうよ?」なんて話をして。「忙しくて体がもちませんよ。でも楽しくって。」「そいつァよかったなぁねえちゃん。この店ももっと大きくなるってんだ」「人気が出たらお客さんの席なくなっちゃうかもね、」なーんて冗談言ってみたり?
戦争の間、限られた食料で作った料理をみんながうまいって言って食べてくれたのをふと思い出した。
本当はもっと美味しいの食べさせてあげられるのに、って悔しい思いをして、気付けば戦争は終わってみんなバラバラ。
飢え死ににそうな私を拾ってくれたのは同じ侍でもちゃんと主のいる侍さん。
土方さん、かっこよかったなぁ…やばい、思い出すとちょっとときめく。
ボロボロの私を警戒してて、よく喧嘩をした。
好きだったんだけど、ほら、好きな人に信頼されてないと傷付くタイプだから。今でこそ普通に話しているけど昔はそうはいかなかったわけで。
「…マヨネーズ、多く出してあげよう」
いつかお金が貯まったら自分の店を持つ。そのために料理も勉強して、経営も独学で努力している。
それで、私の料理で人を幸せにする。私が昔した笑ってしまうくらい馬鹿らしい約束を果たすためにね。
「おはようございます」
「あら、おはよう。今日はご機嫌ね」
「はい。ちょっと先のこと考えてて楽しくなっちゃって」
「鬼が笑うわよ、玲ちゃん」
「たぶん爆笑ですよ」
さて、今日も頑張りますか!とりあえずマヨネーズで真選組の鬼を幸せにしてあげるんだ。
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