プロローグ



初夏の夜、私は縁側に腰掛けて、疲れきって眠る侍達の寝息と鈴虫達の音色を聞きながら月を見上げていた。

青々とした草木は風に揺れて、不快な汗を冷ましてくれる。


「まだ起きてたのか」

「銀時」

いい子はもうおねんねしとけや、と頭に手を置いて隣に腰掛けてくる彼は片手に一升瓶とグラスを持っていて、未成年のくせに、と心の中でど突いてやった。

「お前も飲む?」

「いい。未成年ですからー」

「そんなん気にする世でもあるめーよ」

「こういうのは気持ちの問題なの、お分かり?」

「知らね」

「はいはい」

隣で酒を煽る銀時の髪は月の光で輝いていて、白夜叉とはよく言ったものだと思った。黙っていれば神秘的ともいえるのだが、喋ってしまえば台無し。それが銀時のいいところなのかもしれないけれど。

「…どうした」

「ん?何が」

「人の顔じっと見つめやがって」

「いや、べつに」

「…俺のこと、怖いとか思っちゃってたり?」

ニヤリと笑う銀時に呆れそうになったけれど、私にはその笑みの裏が透けて見えた。

「白夜叉殿に斬られるなら本望ですわ」

「よく言うぜ」

「護ってもらえるなら、もっと本望」

「本望って言葉使い過ぎだろ、語彙力なしかお前は」

「銀時、」

励まそうと思った。そう、思ったのだ。

でも口から出る言葉は銀時を励ますような言葉なんかじゃなくて

「戦争が終わったら、私が銀時の分まで人を幸せにする」

「またお前は突拍子もねェこと言って」

「聞いてよ。それでね、私と銀時のツケをチャラにして、二人で天国に行こう」

「またえらくデカく出たなァ、俺らが天国か」

「本当は小太郎も、高杉くんの分も人を幸せにしたいけど、私一人じゃ銀時の分で精一杯だから、銀時だけ助けてあげる。

他のみんなには自分で助けてくれる人見つけて頑張ってもらおう。

銀時は誰にも助けてもらえそうにないから私が助けてあげるよ。」

「そいつァありがてえ。じゃあ俺はお前に何してやりゃいい?」

「笑ってくれればいいよ」

「即答かよ

…じゃあ、俺がお前を護ってやる。お前が俺を天国に連れてってくれんならお安い御用だ」

「じゃあこれで決まりね」

「俺は本当に天国に行けんのか?」

「行けるよ、私がついてるんだからね」

「行けなかったときお前が近くにいねーと文句言えねぇじゃねーか」

「確かに、…」




「だからよー、戦が終わったら、俺と―――」














「…」

「えらく不機嫌なお目覚めですねィ、嫌な夢でも見やしたか」

「別に不機嫌じゃないよ。ちょっと昔の夢見ちゃってね」

「もしかして、コレですかィ?」

「違うよー。彼氏いない歴=年齢の私に喧嘩売ってる?」

「へいへい、それで?」

「良く分からない幼馴染みの夢を見たの」

あれから何度初夏の月の下で1人風を受けただろうか。
嘘つきは嫌いだ。だから、あの毛玉も嫌い。

そう思いながらも、私は人を幸せにする為に日々努力していた。

言葉だけじゃないか、あんなやつ。高杉くんと変わらないよ。
ぶくぶくと沸いてきた鍋のお湯を見つめながら、私はため息をついた。


今でも気にしてる自分も、嫌いだったりする。



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