対等
「玲」
「はい、!」
「久しぶりじゃないか、毛並みが随分と綺麗になったようだ」
「…伊東さん?」
朝の仕込みを終えて縁側で習ったことをノートにまとめていると、真撰組の隊服をなびかせた伊東さんと出会った。京都にいると聞いたことはあったけれど、まさか会えるなんて。
あまりこの人は得意ではないけれど、伊東さんは私に興味があるようでよくお菓子を貰ったり食事に連れていってもらったりしていた。
土方さんはあまりいい顔をしないけれど、近藤さんはいつも先生と仲良くしてくれてありがとうと笑ってくれていて、その笑顔にちょっと癒されたりしてた。
「小奇麗になったな、だが毛先が荒れてる」
「人を猫みたいに扱わないで下さいよ、勝手に撫でないでください」
「いいじゃないか、僕は猫が好きだよ」
「そういう問題じゃないです」
勝手に撫でられる髪と、伊東さんの笑み。あまり居心地は良くないけれど、まぁ撫でるくらいだったら許せる範囲だ。
充分すぎるくらいもらった長い休憩時間をどう使うか迷っていたが、伊東さんがいるなら退屈はしなさそう。
「いつ江戸に帰っていらっしゃるのですか」
「仕事が片付いたらすぐ戻るよ、寂しいのは分かるが土方くんで我慢してくれ」
「いや、寂しいなんて一言も言ってませんし」
「相変わらず素直じゃないようだ」
「相変わらずおめでたい頭してますね、インテリ眼鏡のくせに」
私は基本、真撰組の初期メンツの人達には頭が上がらない。拾ってもらった恩があるからだ。
でもこの人は別。私より後に入ってきたわけだし、少しくらい冷たくしてもなんてことない。伊東さんに注意されたこともないし、これが丁度いい距離感なのだろう。
「大体、土方さんで我慢ってなんですか」
「僕と土方くんは似ているからね、僕がいない間土方くんに撫でてもらえばいい」
「別に撫でられるのが好きなわけでもないですし、それに伊東さんと土方さんは似てないです」
伊東さんはあんなにイケメンじゃないでしょ、と言ってみると、思ったより悔しそうだ。少し雑にわたしの頭を撫でると、人には好みがあるからね、と何故か自分にいいわけしていた。なかなか可愛らしい。
「夕食、期待しているよ」
「任せてください」
ぽん、と私の肩をたたいて去っていく伊東さんを見てちょっと笑ってしまった。…ショックだったのかな?
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