あきらめ

夏に縁側で家族で並んで座ってスイカ食べるのが夢なんだよね。まぁ、喜助と結婚してもどうせあんた忙しいからそんなことできないんだろうけど。

嫌だな、ボクだって家族団らんの時間くらい作れますよ。

嘘っぽいわ。でもね、ほんとに喜助が家族団らんしてくれるなら、結婚したいなって思うよ。あ、これ嘘じゃないから。

…ほんと、なまえさんって男らしいというかなんというか…。そういうことはボクに言わせてほしいんですけど。

なら、ちゃんと言ってよ、ほら、待ってるよ、私。

えー、今っスか?じゃあ、ちゃんと言うんでちゃんと聞いててくださいね。


「浦原さん、スイカ持ってきたぜ!」

「…あ、ああ、はい!ありがとうございます。おや…立派っスね」

「なんかあったのかよ、ぼーっとしてたろ」

「いいえ、ただ昔のことを思い出してて」

今は時間もできて、あまり会えなかった貴方と一緒にいる時間も作れる。なのに貴方が傍にいないっていうのは…ちょっと、勿体無いな、なんて思ったりして。
みんなでスイカ食べて、今年のスイカは甘いね、なんて談笑する時間も、貴方がいない。そのことにもうなれた筈だった。なのに、不意に思い出しては、胸を抉る。きっと、死ぬまで続くだろう。この胸の痛みを抑える方法なんて、いくら探しても存在しないのだ。

もう二度と、会うことはないだろう。貴方はアタシなんて忘れてしまったでしょうから、アタシだけが痛みを抱えて生きていかなければいけない。これって、不公平じゃないっスかね。貴方も苦しむべきだ。互いに苦しんで、そして死んで行こう。そうすれば、また二人の魂は、いつかめぐり合える。…ちょっとゆがんでますかね、大丈夫、自覚はしてるんスよ。ただちょっと辛いんです。


「邪魔するでー。おっ、スイカやん!めっちゃいいタイミングで来たわ」

「平子さん、どうしたんです?何かありましたか」

「おう、言伝や。お前のモトカノから」

「モトカノって…」

「モトカノやろ?俺の隊のなまえチャン」

「なまえさん」

「別れるなら別れるって言ってくれないと次の人見つけられませんからはやくふってくあさい、やと。向こうでマユリとよろしくやってるらしいで。あのマユリが化粧落として一緒に街歩いて……。おーい、喜助、大丈夫か?」

「別れません」

「お、おお」

「絶対別れません。そう伝えてください」


流石に、次も言伝なんてないだろう。会いにきて、アタシを怒るだろうか。それとも、マユリさんが来てアタシに手を引け、なんて言ってくるのだろうか。
どうでもよかった。貴方に会えれば、それだけで。

「浦原さんって、彼女いたんだな」

「ええ、100年ちょっとご無沙汰ですけどね」


男なんて、いつだってそんなもんだろう。





(喜助!なんなのよ今まで連絡よこさないから自然消滅したと思ってたのに別れないって!)
(お久しぶりっスねー、相変わらずお綺麗で)
(怪我をしたくなかったらその手を退けたまえヨ)
(マユリさんもお久しぶりっス、またフォルムチェンジしました?)

((まさか両方とは…))