「人の一生なんて、貴方にとっては一瞬なんでしょうね」 私が、はじめて貴方に愛を囁いてもらえた日。ふとそう思って、それを言葉に出した。貴方は「そんなこと、ないっスよ」なんて言ってくれたけど、私の手を握る手は痛いくらい強くて、震えていた。 「お布団敷いたよ、喜助さん」 「ありがとうございます、今行くんで」 「はーい」 お風呂から上がって、敷いた布団の上でごろごろ。今行くなんて言ってるけど来るのはもうちょっとしてからになるだろうから、ケータイゲームとか、ケータイ小説とか、適当な娯楽を探す。 こんな時間に慣れて、はやくしてよ、なんていう事もできなくて。一人で待つのに慣れてしまった。 小説を読みはじめて30分くらいしてから、彼が来た。お風呂上がりみたいで、「急いで入ってきました」って言って笑った。笑顔だけで待ってたさみしさも吹き飛んでしまうのはどうしてだろうか。 「一人で何してたんです?」 「小説読んでたの」 「もう寝ちゃったのかと思いましたよ、起きててよかった」 「なんで?」 「寝る前に貴女と話すの、好きなんスよ」 ほら、ぎゅーしてください。と横になる私のとなりに座って両手を広げる喜助さんのために、起き上がって抱きついてあげた。#name2#さんの匂いだ、なんて言ってる喜助さんの髪に優しく唇を落とす。 布団に入るために離れても、入ったらすぐに近付く。喜助さんの腕の中は、私の場所だ。 「お隣のヨネさん、亡くなったみたいで」 「うん 」 「人の一生って、短いな、なんて思ってしまいまして」 「ヨネさんね、88歳だったの」 「……短い」 「そうでしょう?人の一生って、短いの」 「貴女も」 「ええ、私も」 「なのに、ボクのこと待ちますね」 「好きだからね」 「はやくして、なんて言わない」 「好きだからね」 「……もっと、急かして下さい」 「どうやって?」 「愛してくれ、そばにいてくれ、一緒に何処か遊びに行こう、って。急かしてくれないと、貴女が傍にいる間に全部してあげられない」 「喜助さん」 「貴女が居なくなったあとのボクのこと、考えたことはありますか。貴女がそばにいないボクを、想像できますか」 「……喜助さん」 「安心、させて下さい」 「ねえ、私を抱きしめる腕を解いてくれないと、貴方にキスができない。」 より多くの面積を触れわせていたいなら、キスはできない。皮肉なものだ。しっかりと掴んでいたいのなら、キスなんて、できないのだ。 泣きそうな貴方にキスをするのは、私を掴む腕をいつでも離せるように。 私が死んだあとの貴方が、ほかの人に進んで行けるように。 「愛してる」 苦しそうに眉間に皺をよせて、「アタシもですよ」と言う貴方が、幸せであるように。 そう願って、私はキスをする。 いつでも抜け出せるように。 (貴女がいない世界なんて考えられない) (私がいなくなった後の貴方が、幸せでありますように) |