私が知らない貴方が憎かったし、私のことを知らない貴方はもっと憎かった。 「火影様、そろそろ休憩してはいかがですか」 「いや…いいよ。まだやらなきゃいけないことが多くて」 いつから道は別れて、いつから貴方はこんなに遠くに行ってしまったのだろうか。 私がずっと、貴方を見ていたこと、貴方は知らないでしょう? 私はリンみたいに近くで貴方を見ることはできなかったし、オビトみたいに貴方に気にかけてもらえるような子にはなれなかったし、ガイみたいにライバル勝負ができるほど強くなかった。 それってね、結局私がリンより可愛くないからで、オビトみたいに目標がないからで、ガイみたいに努力ができないダメな子だからなんだと思うんだ。 戦争で傷ついてしまった体はきれいとは言えなくて、大切なものを守る、なんて目的意識は私にはなくって、ただ貴方が戦っているなら私も、なんてそんな馬鹿みたいな理由で参戦して。 それでも、貴方は私を見ようとしない。 私には、オビトのような友達はいないし、リンみたいに貴方の心に傷跡を残して去ることもできないし、ガイみたいに明るさで貴方を支えてあげることもできないから。 私はいくつになっても、貴方に届かない。 「では、お先に失礼します」 秘書なんて、結局お飾りみたいなものなんだと思う。結局私ができることは仕事の手伝いだけで、本当の意味で貴方の助けになるようなことは何一つできていないし、貴方は私が誰かもきっとよくわかっていないんだと思うんだ。 火影室のドアを開けて部屋を出る旅に、自分の無能さと、無力さでつぶれてしまいそうになる。 私は結局、貴方に向かって歩くことができないバカな女でしかなくて、貴方は私をその他大勢のくくりに入れてしまっている。 「ねえ」 「何か、不備でも?」 「いや、そうじゃないんだ」 すべてを見透かすような黒い瞳に縫いつけられたようで、危険信号がともる。 気づかれてしまったのだろうか、私の気持ち悪い感情に。 その他大勢の私が貴方に向けた想いを、貴方は気持ち悪いと言って否定するのだろうか。 「他人行儀だな、と思ってね」 「そう、ですか?」 「火影様、なんて、堅苦しいよ」 ああ、泣き出してしまいそう。 何を求めていらっしゃるのですか。私の、気持ち悪い感情をそうやってあぶりだそうとして、楽しいんですか。 「火影様は、火影様ですから」 私は、その他大勢でいい。 拒絶されることもなく、気にかけてもらえるような存在でもなく。友達でも、ライバルでも、仲間でもなくていい。 「…そう」 「失礼します」 だから、私を見ないで。 (また、逃げられちゃった) |