つまり敗北
授業なんて簡単だ。教師の目を見て話を聞いて適当に頷いて、つまらないギャグに笑ってあげれば機嫌はとれる。
「なまえって、ほんと優等生って感じね」
「そんなことないよ、サクラの方が頭いいじゃない」
相手の顔を立てることができるように、必要以上の力は出さない。
そんなことないよ、と頬を赤らめて笑うこの子は可愛い。羨ましいくらいに汚れなんてない綺麗な笑顔。
「私も頑張らなくちゃ」
私の笑顔は、いつも皮の下に黒いものが住み着いているせいで穢い。純粋な笑顔なんてもう作れなくなってしまった。
それでもいいと思うのは私の思考回路が損得勘定に支配されているからで、何も知らなければこんな思いをしなくて済んだのに。
楽な生き方をしたいと思った。最低限の努力で、幸せな暮らし。
女に生まれた時点で決まっていたのは自分が弱者であるということ。どんなに足掻いても男には勝てないのだ。
それなら、いっそ利用してやろうなんて考えて
「ナルトくん、今日一緒に帰ろうよ」
薄い皮の下に自分の内面を隠して微笑むことは、自己防衛の手段だった。
控えめに腕に触れて、恥ずかしそうに笑ってあげる。
「なまえさん、ちょっと」
私の鼓膜を震わせる低い声音は、私を不愉快にさせるには十分だった。
笑顔を崩さないように振り向けば、相手も笑顔。何を考えているか読めない、気持ち悪い笑顔だった。
「なんですか?」
ナルトに謝ってからヤマトについていくと、猫に似た目で睨まれた。
「僕みたいな地味な男に振られたまま他の男に手を出すなんて、悔しくないの?」
「……なんの話でしょうか」
「プライドないんだね、君」
「ちょっと話についていけないんですけど」
「そんなんじゃ他の女の子と一緒だよ」
見透かすような言葉。
私のくだらないようなプライドを刺激するには十分すぎる。
「…焚きつけて、楽しいですか?」
「ああ、楽しいね」
最低だね、ほんと。