敗北の蜜

「ヤマト、せんせー?」

「そう。よろしくね」

「うん、せんせーかっこいいね!彼女とかいるの?」

「そういうことは、気軽に聞くもんじゃないよ?」

「なんで?」

「なんで、って」

「わかんないな、教えてよ、せんせ」


弱者のフリをして、媚を売って。そうしていれば傷つけられることはないし、悔しい思いをすることもないよ。
保健室の消毒液の匂いと、今自分がしようとしてる事のギャップがおかしくて笑ってしまいそう。

別に、教えてって言ってるだけで、何が、とは言ってないんだし。
この人が勝手に勘違いして擦り寄ってくるだけだし。

やさしく触れてくるであろう手を想像して見下すような目を瞼の下に隠せば、予想とは違う反応。


「安売りされてるモノは魅力的に感じないんだ」

「なんのことかなあ」

「もっと大人になったらおいで」

「よく、わかんない」

「分かるようになったら、相手にしてあげる」

思わず、瞼をあけてしまった。
人を見下す目、自分でも自覚している冷たい目は、誰にも見せるつもりはないけど貴方は特別。


「あっそ」


別に、なんでもいいけど。

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