カカシ先輩が彼女と別れたらしい。
あんなに幸せそうな顔をしていたのに。たまに僕は人間というものがよく分からなくなる。
親を知らない。勿論兄弟も、家族も。
本来知るべきである人間のコミニュティの中にいなかった僕は、見様見真似で他の人間に合わせることしかできなかった。
それなりに、うまくやっていると思う。誰にも違和感を持たれない程度には。
それでもまだ僕が恋というものと、愛というものについてしらないのは、人としての感情に欠落部分を持っていることの証のように感じた。
「こんばんは」
そんな僕が何故カカシ先輩の元恋人に会いに来ているのか。実のところそれは僕にもよく分からなかった。
衝動に任せて動くなんて僕らしくないが、それも悪くないのではないかと思い直した。
「暗部?」
暗部の仮面をつけたまま現れた僕に驚きながら、急いで窓を閉めることはない。警戒心がないのは同じ木の葉の忍だからだろうか。
「カカシ先輩の元カノさんですよね」
人にどう思われるか、人にどう影響を与えるか。常にそんなことを考えていた僕が、何も考えないで発した言葉は自分でも笑ってしまう程に人の心情なんてものを考えていない。
失礼な奴だと、そう思って窓を閉めるのかと思った。
「そうだよ」
でも彼女は窓を開けたまま。顔をしかめる事もなく、儚げに笑ってそう言うのだ。
「あなたに興味が湧きました」
外と隔離されたこの窓の枠の中へ、僕を招き入れて
「とりあえず、お茶でも飲んでいけば?」
差し出された手に手を重ねる僅かな触れ合いでさえ胸がざわついて
「喜んで」
その手を取らないで中に入った事を、僕はきっと、死ぬほど後悔する。