「……ありがとう」
病院のベッドに優しく下ろされた。無機質で冷たいシーツに、心まで冷やされてしまいそう。
カカシの紡ぐ言葉の内容が予想できなくて不安で、カカシの顔を見ることなんてできなかった。
部屋の隅に視線をやりそう言うと、カカシは黙っていつものようにベッドに腰掛ける。このまま出ていってしまうのではないかと思っていたので、少し意外だ。
この場で、全て決まってしまえばいい。逃げて欲しくはない。そう伝わればいいと、手を伸ばしてカカシの袖をぎゅっと掴んだ。
「何も聞かないの?」
「聞いて欲しいの?」
「聞きたい事があるなら聞けばいい」
「…いいよ、聞かない。だから、カカシが言いたいことを言えばいい」
正直、聞きたい事は山ほどあった。だけどそれを全てぶつけたところで、何も変わらないことを私は知っていたのだ。
我慢して、一歩引いて見て、自分の気持ちを押し付けたりしない。それが器用に生きる為に与えられたルールらしい。要するに、大人であるためのルール。
「首に手をかけた時に、大切にできないって気付いたんだ」
それは、私が知らなかったカカシの心の機微のはなし。