次の瞬間、テンゾウはぼふん、と煙に包まれた。煙が拡散して空気に同化していくと、真っ先に目に入る銀色。
「…そっくり」
最後に見た時より年を重ねたのが雰囲気で分かるような、完璧な変化の術。
何かを押し殺したような目をして、私をまっすぐ見ることはない。私と一緒にいるカカシを見てないとこんなに似せることはできない表情だ。
「よく見てるんだね、カカシの事を」
「……ああ」
「……テンゾウ?」
「カカシだよ、今は」
「悪趣味だなあ、私とカカシごっこがしたいなんて」
「性格悪くなったね。」と茶化してごまかそうとするけれど、誤魔化しが通用する子供ではない。
テンゾウ……いや、カカシは右手のグローブを外して、私の手に自分の右手を重ねた。
昔、手を繋ぐ前に必ずグローブを外してくれたあの仕草が重なる。なんだか、本当にカカシみたい。
「最近何かあった?」
「幼馴染みが瀕死で帰ってきたよ」
「それ以外で」
「……サクラに、問いただされたよ、お前のこと」
夜の病室でする元カレごっこは、テンゾウの観察力の高さのせいで無駄にリアリティがあって、雰囲気に飲まれてしまいそうだ。
「なんて?」
「どうしてなまえさんが任務に出てから急に遊ばなくなったんですか」
「生徒に女遊びバレるなんて最低」
「ほんとにね」
「それで、なんて答えたの?」
「いい年だから遊んでられないでしょ、って」
「絶対誤魔化せてないよ、それ」
久しぶりに、カカシの前で笑えた気がした。カカシの笑ってるところを、久しぶりに見れた。
「ねえ、カカシ」
「ん?」
「ありがとう」
「……オレはお礼言われるような事なんて何一つしてないよ」
「元気出たから、カカシのおかげで」
だから、ありがとう。
そう言う私から目を背けたカカシの袖を掴んで、泣きそうなのを悟られないように目を閉じた。