眠れなくて窓を開けてぼーっとしていたら、強い風と一緒に見慣れた後輩が入ってきた。
他の人より常識人だった筈なんだけど、見ないうちに変わったのだろうか。
「テンゾウ」
「ひどい格好ですね」
「否定はしないよ」
暗部ではない緑のベストを着ているから、暗部ではなくなったらしい。
相変わらずの猫目が懐かしくて頭を撫でたい衝動にかられるけれど、手が届く範囲に来てくれないと何もできない。
可愛がってたつもりだ。傷つけないように甘やかしてたつもり。カカシと同じように傷つけたくなかったから。
「来てくれないのかと思った」
「瀕死だと聞いて呆れましたよ。八門遁甲なんて。女性の貴方が使っていい訳が無い」
「やっぱ仲間が1人死ぬとね、ほら、臆病になっちゃって」
「言い訳はいいです」
「すいません……」
なんだか、立場がないというか何と言うか……。こんなに冷たい人だったっけ、テンゾウ。
備え付けのパイプ椅子を指さして座るように言ってみたけれど無視されてベッドに座られた。近い、今度は近いんですけど。
とりあえず頭を撫でようと手を伸ばしたら、頭に到着する前に手を掴まれてしまった。先輩離れってやつだろうか。
「……テンゾウ?」
するりと私の手首に巻き付く手が何を求めているかに気付いて、手の力を抜いて好きにさせてあげた。
手首の血管に触れる指先は、私の心臓が脈打つ感触を感じているのだろう。
「生きてるよ」
「知ってます」
「疑ってるから脈とってるんでしょ」
「……そりゃ、疑いますよ。不安にもなります」
何を言ってあげればいいか思いつかなくて、しばらく沈黙が続いた。
何を言っても怒られてしまいそうだ。
「テンゾウって、手冷たいね」
とりあえず、当り障りのない会話から。
やんわりと手首を掴む手を外そうとしたのに、力が抜けていたはずの手に力が入って外せない。なんですか、地雷踏みましたか。
「カカシ先輩も、手冷たいでしょう」
「昔はね。今は知らないけど。……なんで知ってるの?」
手を握り合う仲なのだろうかと考えて思いの外きつくてやめた。流石にそれはない。手を取り合って仲むつまじく話すカカシとテンゾウとかダメだ、幻術でこれ見せられたら相当メンタルに来そう。
「…前、本人から聞いたんですよ。」
「そっか」
どんな話から末端冷え性の話になるのだろうか。二人が一緒にいるところなんて見たことがないから想像がつかない。
「テンゾウって、カカシに詳しいね」
「そんなことは」
「あると思うよ。私よりは絶対詳しいもん」
「……試してみますか?」