追いかける





「いらっしゃい」



受話器越しじゃない先生の声は綺麗で、私は自然と笑顔になれた。


美味しいと評判のケーキ屋さんで買ってきたケーキの箱を渡すと、先生はありがとうと微笑んで受け取ってくれて、お茶を淹れてくるとキッチンへ向かった。


マフラーとコートを脱いでソファに座って待っているとテーブルの上にはメモ帳と万年筆が置かれていて、先生の熱心さが伺える。



「お待たせ」


「ありがとうございます」


先生の淹れてくれるお茶は美味しい。

お茶受けのケーキも一口食べてみるとやっぱり美味しくて、このお店で買ってよかったと思わせてくれた。


「このケーキ、美味しいね」


「そうですね。幸せです」


「玲ちゃんは本当に美味しそうに食べるから一緒に食べてて楽しい」


「そうですか?…ありがとうございます」


なんだか同い年くらいなのに私の方が子供っぽい感じがしてちょっと恥ずかしい。


いや、このケーキが美味しすぎるのがいけないんだ。私のせいじゃないんだ。このっ…ケーキめ!


「ねぇ玲ちゃん、好きな人でもできたの?」


「な、なんですかいきなり…」


「香水の匂いがしたから…違う?」


先生、鼻がいい…

って、なんで香水付けてるだけで分かるんだろう。これも作家パワー?


「…好きな人、できました」


正確に言うと恋人なんですけどねっ


あ、どうしよう恋人という言葉の響きに照れた。どうしよう恋人なんだよ。そうだよ恋人なんだって。


…そうだよ、恋人。


婚約っていう言葉のインパクトが大きすぎて恋人っていう言葉が地味になってた…


今枕があったら顔をうずめてじたばたしてただろうなぁ。よかった家にいなくて。



「どんな人?」


どんな人…う、うん…


改めて考えてみると不思議な人…?


三天の怪物なんですーなんて言えないし、見廻組局長なんですーって言うのもアレだし


性格で言うとなんなんだろう…エリート?いや、エリートは性格じゃないし…


「不器用な人、でしょうか」


優しいし、手先も器用だし、エリートだし。


でも不器用だから上手く伝わらない…そんな人なのかな、たぶん。


「玲ちゃん、その人のことが本当に好きなのね」


「…はい」


照れるけど、それは間違いない事実。

やっぱり好きなんです。ケータイ依存症だけど、不器用だけど。


「なんだか今の玲ちゃん見てたら書けそうな気がしてきたわ」


「ほ、本当ですか?ありがとうございます」


「ありがとう。ちょっとゆっくりして行って?」



先生が机に向かう。


私は先生が執筆している後ろ姿を見るのが好き。


作品が生まれて行くのを感じられるような気がするから。





先生の後ろ姿を見ていると、不意にケータイのバイブレーションがした。

急いでケータイを見ると、新着メールがどっさりと。


苦笑いしながらも受信ボックスを開く。



ああ、やっぱり私、この人が好きだ









追いかける



((メールの文字を目で追いかけていると、幸せな気分になれる))


(玲ちゃん、好きな人からのメール?)
(えっ、あの…はい)
(すっごい幸せそうな顔してたよ?分かりやすいんだから)
(す、すいません…)
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