焦がれる
私には人に自慢したくなるような甘い冬がある。
それは現在進行形だったりするワケで、今すぐにでも同僚に話したいことばかりなんだけど、改めて話そうと思うとちょっと照れてしまう事ばかりだったりして。
会社のパソコンに向かっている今でも、震えるケータイにドキドキしてる。
メールの内容はきっと今度の休日の事だと思うし、その内容も大体見なくても分かってしまう。
あー、幸せってこういうことを言うのかなーなんて思っていると、後ろから強い一撃。
「…編集長、いきなりなんですか」
「デレデレしてないで仕事をしろ仕事を」
「なら口で言って下さいよ!なんで殴るんですかパワハラですよ」
私の勤め先は地味に売れてる雑誌で有名なところで、私はそのあくまでも地味に売れている雑誌の編集部だ。
記事の内容は主に小説。色々な雑誌を出しているこの会社の中で、ゴシップなんかを書かなくていい平和なところ。
私の担当の作家さんは今注目の若い女性で、恋愛小説を主に書いている。
他の先輩達は2人掛け持ちしていたりしているんだけど、私の担当している作家さんを大事にしたいという理由から私はかけ持ちを許されていない。
つまり、私は結構大事な仕事を任されているのであります軍曹。
「ほら、先生から電話だよ」
来た来た、噂の恋愛作家さんからのラブコール。
受話器を耳にあてると、程よく響くアルトが聞こえた。
「もしもし」
『玲ちゃん、甘いものを持って直ぐに来て、またお茶会するよ』
「了解です。何かリクエストは?」
『ショートケーキ』
「分かりました。すぐに向かいます」
短篇小説が売りの作家さんで、ネタ作りにはいつも女子会。
私は恋愛経験がないからいいアイディアは出せないのに、作家先生はいつも私にありがとうと言ってくれる。
編集と作家の友情ってこんな感じなんだな、とちょっとほっこりする話なんだけど、今ほっこりしていると時間がなくなってしまう。
ケータイの受信ボックスを開けて、今すぐにでもメールに返信したいけどそれはまたあとでにしよう。
…会いたいなぁ
焦がれる
(会えない寂しさって、忙しいと薄れるって言うけど…正直、あんまり薄れてない)