「玲さん」
「え、えへへ…これはだね、その…」
「部屋が荒れているのはこの際いいです。今隠したものを出してください」
「ぎくっ…むむむ無理!無理だよ!こんな恥ずかしいもの!」
「なるほど?恥ずかしいものなのですか」
「あの、これはー、」
「見せなさい」
「あっ」
二次元キャラのグッズで溢れかえった部屋。そしてテレビの画面には玲の好きなキャラや他のキャラクター達が映っており、玲の手の中にあるのは、高くて薄い本…もとい、同人誌と呼ばれるもの。しかも、堂々とR18の文字が書かれている。
異三郎と玲は恋人同士だったが、玲は付合うときに「エリートの恋人がオタクなんて、恥ずかしい」と脱オタすることを決めたのだが、異三郎の見えないところでオタク活動を細々と続けていたのだ。
「…男色がお好きなのですか」
「ち、違うの!これはね、あのー、」
「メールの返信が遅いと思えばこういうことだったとは」
勿論それに気付かないほど異三郎も鈍くはない。仕事で忙しく会えない事も多いため、なんであろうと打ち込める趣味は必要だろうと目を瞑って来たのだ。
しかし、最近は自分より趣味…アニメなどを優先している事を悟り、そして今に至る。
オタクで、腐女子。同人活動もしていて、動画サイトを巡ったり恋愛シミュレーションゲームも好む。夏のオタクの祭典にも行ってしまう程に、玲に深く染み付いて取れないオタクの習慣。
「このキャラクターは?」
「私の嫁!…っじゃなくて、あの、」
「……」
「え、っと…ほんとに、ごめん」
異三郎は深くため息をつくと、いつもずっといじっている携帯電話を取り出した。
メールか何かを編集して、パタンと携帯電話を閉じると、一番近い所にあったフィギュア類を集め始める。
本は本。グッズはグッズでまとめている異三郎をぽかんと見つめていた玲だったが、なぜまとめているか悟り急いで異三郎を止めようとした。
「ごめんなさい!!謝るから!!だから捨てないでくださいいいい!!」
「予定変更です。厳重注意で終わらせるつもりでしたがやはりそれだけでは十分ではないようなので」
「ねぇ、なんでもするからっ、」
「なんでもする、ですか」
「う、うん!」
「なら、私と結婚しなさい」
「はい!結婚しま…って、ええええ!?」
結婚って何!?それってあの、オタク的なあのノリじゃなくて本当に結婚って意味だよね!?と騒いでいる玲の手をひいて、異三郎は自分の前に座らせた。
そっと頭を撫でると、ゆっくりと唇を寄せて、玲の腰に手をまわす。
唐突なその動作に驚きはしているが抵抗しない玲は、恐る恐る異三郎の背中に腕を回した。
「…あの、異三郎?」
「私がいるじゃないですか。私、貴方の好きなキャラクターに負けないくらいエリートですよ」
「もしかして、異三郎さ、」
「ええ、嫉妬です。いけませんか?」
「…いけないわけ、ないじゃん。…でもね、」
玲は自分のポケットから抜き取られたキャラグッズを持つ異三郎の手を掴んだ。
「これだけは渡したくない!」
「離してください。今信女がビニール袋を持って来ますから」
「信女ちゃんにメールしてたの!?私というものがありながら!」
「都合のいい時だけ嫉妬してるアピールやめてください」
「私からキャラグッズ奪う為に結婚とか持ち出すのは最低だと思うんだけど?」
「結婚は本気です」
「嘘!」
「本当よ、玲」
「信女ちゃん!」
大きなビニール袋と、本を縛る為のビニール紐を持って現れた信女は、相変わらずの無表情で異三郎にビニール袋を渡した。
そして隊服の胸ポケットから、もう異三郎のサインと印が押してある状態の婚姻届を取り出して、玲に渡す。
「サインして。」
「えっとー、これはつまりどういうことだってばよ?」
「結婚しましょう、玲さん」
「ほ、ほんとに?」
「ええ。嫌ですか」
「嫌じゃない!」
「愛してますよ、玲さん」
「私も、愛してる!」
キャラグッズ全部処分の話を忘れて異三郎に抱きつく玲と、玲を抱きしめながらこのアニメーショングッズは全て夫婦の共有財産になるから合法的に処分できると考えている異三郎。2人を放置して、信女はある程度まとめられたグッズを、ビニール袋に放り込んでいった。