偽善者が花粉被って近づいて来る。そんな最悪な例えをしてみたけれど、誰もわかってはくれなかった。
花粉症の私にとっては最高にわかりやすい例えだと思ったんだけどな。


「登校拒否したと思ったらこんな時間に優雅にご登校かコノヤロー」


「気が向いたから来てみただけだよ」


「毎日気が向いてくれたら先生楽なんだけど」


保健室のベッドの上、屋上、そして校舎裏の日陰、あとは…数学準備室?私が学校に来ても行く場所なんてそんなもので。
まともに授業なんて受ける気にもなれないし、1年が終わって授業が全部終わり、あとは簡単なホームルームだけな期間なら尚更学校に来る気なんてなくなってしまうわけで。

みんなが修学旅行の事前指導だかなんだかで朝から学校に来ている日も、私は家でずっと寝ていたり、学校に来ても花粉症がひどくて保健室で寝ていたり、なんていうのが常。
そんな私にとっては教師なんて偽善者でしかなくて、その偽善者の中でもまともだって思えるのが数学の坂本センセー。今日は朝から来ていたけど、それは坂本センセーが数学準備室にいていいって言ってくれたから。

私専用になりつつあるソファーでごろごろしながら家から持ってきたジャンプを顔の上に広げて寝ていると、私にとっての偽善者代表であるアンニュイ気取りの白衣の天パ野郎が来てしまって。まぁ、私の今の気分は最悪。一応朝から来てんだってば、もう、マジ最悪。


「お前、去年はこんなんじゃなかったろうが」


「こんな、って言い方はないでしょ。今の方が生きやすいよ」


「せめて教室には来いって言ってんだろーが。あの高杉でも来てるぞ」


「高杉くんと私は違うよセンセー。あとで教室行くからさ、クラスのみんなのところへお帰りくださいませ?」


むくりと起き上がって、目の前でいつもと変わらない冴えない顔してる先生に、自分でも笑ってしまうほど胡散臭いであろう微笑でドアを指さしてやった。
すると先生はため息をついて、当然のように私の隣に座った。何こいつ、なんなのこいつ。坂本センセーはやく帰ってきて。


「お前、来年受験だろうが、そろそろやべーぞ」


「来年からは1年のときみたいに優等生気取ってあげるよ」


「気取るんじゃねーだろ、お前の場合はよ」


「…またそうやって私のこと分かってるアピール?そういうのいいよ、センセー。私そういうの苦手なんだ」


自分はほかの先生とは違うって、そういいたいんでしょ。何が違うの、あんたも一緒だってば。私のこと優等生って決め付けて、ちょっと成績落ちたくらいで手のひら返したり、「本当はもっとできる子だ」って決め付けて、違うって言ってるのが聞こえないみたいに、私が、私のことを話しているのに誰も聞こうとしない。


「…いい大学行ってあげるからさ、見逃してよ、お願い」


「お前な、」


何か言いたそうにしているセンセーは、それ以上何も言わないで立ち上がった。なんだか見捨てられたような気がしてその背中を見つめていれば、「今のお前には分からねーだろうよ」って捨て台詞を吐かれて。

クラスで一番頭がいい私に何言ってんの、と茶化そうとしたけれど、それはできなかった。
振り返ったセンセーの目が真剣だったから、何も、いえなくて、それで。



「来年、一年間優等生やりきったら教えてやらァ」


だから、せいぜい猫被りやがれ。そう言われて、何も言葉は出てこなかった。
大人っていうのはずるい生き物で、偽善者でしかない先生代表である担任のむかつく笑顔で少しだけ胸が締め付けられた私は、きっと単純で、馬鹿な生き物なんだろう。



「…死ねばいいのに」


また、ソファに横になる。ジャンプを広げて顔の上においた。へっくしゅんとくしゃみが出たのは、きっと偽善者…いや、銀八が花粉被って近づいてきたから。本当に


「…最悪」


しばらくして戻ってきた坂本センセーにさっき会ったことを話したら、坂本センセーは来年の今頃に赤飯炊いてやるきに、と笑った。
意味が分からなかったけど、きっと、いい意味なんだろう、たぶん。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -