「土方さんに私の何がわかるっていうの」


そう言って屯所を飛び出してきたのは数時間前の話。

寺子屋の同窓会に行く、いかないのはなしで喧嘩になって、昔の彼氏とかと会いたいだとか、初恋の憧れの男に会いたいとかそんなんだろとか言われて私がキレた。
付き合ってから一度も喧嘩なんてしたこともなかったけれど、いい加減私が耐え切れなくなっていたのだ。


「…だからと言って俺ンところに来られても困るんですけどー」


「どう思うよ、あのマヨネーズ脳。別にみんなに会いたいだけじゃん?なのに勝手に決め付けてさ、なんなの、死ぬの?」


結局行く場所なんて決まっていて、親友の銀さんのところ。
銀さんはジャンプを読みながらぐだぐだしてるだけで、万事屋の経営は今日も大変なんだろうなと色々察してしまった。

「今までもそういうとこなかったわけ?多少はそういうところもあるって分かって付き合ってんだろうが」


確かに銀さんの言うとおりで、私は何も言えなかった。
でも、今まではこんな風にひどいことは言われなかったのだ。こういうの好きだろって言ってプレゼントしてくれたキーケースは私の趣味ではなかったけれど土方さんが選んでくれたのがうれしくて使ってるし、ずっと買おうと思ってたヘアピンも土方さんが買ってきてくれて、ま、まぁそれもすっごく好み、ってわけじゃないけど土方さんが買ってくれたからうれしくて使ってるし。

似合うものと好きなものって違うじゃん?選んでくれたってことは私に似合うと思って買ってきてくれたわけで、好みじゃないとかは言ったことはなかった。


「…でもさ、流石にあんな言い方…」


「それを俺に言っても仕方ねーだろうが。早く大串君のところ行って来いよ」


「行く勇気がないからこうして銀さんに話してるんじゃん」


「いーから行って来いって。私だって男遊びしたいんだって」


「だから男遊びがしたいとかそういんじゃないって言ってるでしょ頭大丈夫?耳ついてんの?」


「玲さん、下にパトカーとまってますけど、土方さんじゃないですか?」


洗濯物を干していた新八くんに言われて窓から外をのぞいてみると、見慣れたパトカーと、窓を開けてタバコを吸っている土方さんの姿が見えた。顔面蒼白になっているであろう私の顔を見て、銀さんは「なんかあったら話聞いてやっから行ってこい」と背中を押してくれた。

重い足取りで下に下りていくと、土方さんがパトカーから降りてきて助手席のドアを開けてくれた。別にそんなことしてくれなくても普通に乗るってば。私そんなことされても別にうれしくないし。

そう言いそうになるのを堪えて、黙って助手席に乗る。
運転席に土方さんも乗って、シートベルトを締めた。


「…体調、悪ィのか」

「…え?」

「顔真っ白だぞ、なんか飲むか」

「大丈夫です、なんでもないですから」

「ちょっと待ってろ」


すぐ近くの自販機に向かう土方さんを見て、心配されてるんだなぁとぼんやり思ってしまったけれど、すぐ思い直した。
大丈夫だって言ってるのに。やっぱり私のこと知ったかぶりしてるだけなんじゃないかな。私が一番私のこと知ってるはずなのに。


「ほら」


渡されたのは小さいペットボトルのぶどうジュース。私、いつぶどうジュース好きだって言ったっけ。土方さんの前でぶどう味のなんて食べてないし、別に対して好きってわけじゃないんだけど。


「…ありがとう、ございます」

「ぶどう、好きってわけじゃねぇだろお前」

「いや、好きですよ」

「うそつけ」

「うそじゃないです」

「お前、うそ吐く時右の頬がひくつくんだよ」

「…そんなこと」

「いいから、本当の事言えよ。」

「…好きじゃ、ないです」

「おう、知ってる」

「…は?」

ずっと目を合わせないようにしていたけど、その言葉で土方さんの方を見てしまった。マジか、お前。みたいなノリで。
もしかして、いや、もしかしなくても、この人は今までずっと分かっててやっていたのではないだろうか。


「こっちだろ、お前が好きな方」


フッと笑って別のペットボトルを手渡された。笑った顔がカッコ良すぎて全部許しそうになったけれど流されてはいけない、軽く意地になってるのは気にしないで欲しい。

でも、本当は私こと分かっててくれたんだな、とか、もしかして、ずっと本当のこと言って欲しかっただけなのかも、とかいろいろ考えていると少し罪悪感。ごめんね土方さん、私、もっとちゃんと素直に…


「…土方さん、これ」

「おう、トマトジュースだ。お前トマト好きだろ」


うん、違う。盛大に違う。壮大に違う。


「…土方さん、私トマトジュース嫌いです」


なんだか、力が抜けてしまった。
丁度いい脱力感に笑ってしまいそうだ。今のテンションならちゃんと言えそうな気がする。


「あのね、土方さん。私、土方さんが思ってるような人じゃないかもしれないんです。」

「ンなことねぇだろうが、お前はお前だ」

「土方さんが選んでくれるもの、私の好みとはちょっと外れたものばかりなんです。キーケースも、ヘアピンも。今買ってくれたトマトジュースも。土方さんが思う青村玲と、少しずれてるんですよ。だからね、土方さんが思う私と、私自身って、違うんじゃないかって」


私がそう言うと、土方さんはしばらく考えるような様子を見せた。
なんて言われるのかな、そんなことない、とか?その通りかもしれないな、別れよう。とかかな。別れようなんて言われたら私涙とまらないかもしれない。自分からきっかけになるようなこと言っておいてなんだけど。


「全然ちげぇわけじゃねぇんだろ」

「…はい?」

「俺がお前に似合うと思って渡してる物全部、好みにドンピシャってわけじゃねぇが惜しいとこまではいってんだろ」

「は、い」

「なら、いい」

「な、何がですか」

「付き合い始めてたかが4ヶ月くらいだろ、そんなんでお前のこと全部分かる筈がねぇ。お前の好みも、全然違うってんならもっと考えるが、惜しいとこまでいってんなら上等だろ」


確かに、そうなのかもしれない。
土方さんがくれるものは私の好みから全然離れているわけではない。ホームランではないが、バットには当たっているのだ。

「で、でも土方さん。私同窓会に男目当てで行こうとなんてしてないです」

「それは俺の八つ当たりだ、気にすんな」

「…八つ当たり、ですか?」

「俺の知らねぇ奴等の所にお前を行かせたくなかったんだよ」

「それなら、そうやって言ってくれれば」

「だが、そんなの俺の勝手でしかねェだろうが」

「土方さん、」

「だから、八つ当たりだ。俺の言うことなんか気にすんな。お前は笑ってりゃいいんだよ」


優しい人、そう思った。

焼きもち、嫉妬も自分の勝手だって思って押さえ込んで、それでいて私のことを分かろうとしてくれてる。


「お前、正直に感想言わねぇから好みとか全然わかんねーんだよ。ちゃんと言え、ちゃんと」

「…はい」

「それから、同窓会行くならマヨネーズは持ってくなよ。男が寄ってくる」

「マヨネーズ持ってたら逆に誰も寄ってこないと思いますよ」

「マヨネーズなめんなよお前」

「マヨネーズ単品で舐めるのは土方さんだけです」


軽口をたたきながら、助手席でぶどうジュースを飲む。ポリフェノールたっぷりな感じで、少し渋みとかあったりして。
知ったかぶりしないで、なんて啖呵切って出てきたのに、なんでこんなに居心地いい空間に帰ってきたのか。

「いいか、マヨネーズはな」

「ああ、そうだ土方さん」

「なんだよ、折角マヨネーズの素晴らしさを…」

「焼きもちは、八つ当たりじゃないですから。ちゃんと教えてください。恋人なんですから、独占する権利くらいあるんですよ」

「…」

「好きです。土方さん」

「…おう」


耳が真っ赤になっていて、とても可愛らしい。
八つ当たり、焼きもち、嫉妬。そういうのちゃんと言って欲しいと思う気持ちと同じことを、土方さんも思っている。

そう考えると、実はちょっと似てたりして、なんて嬉しくなって。

普段なら絶対開けないトマトジュースも、あけてしまうくらい、ドキドキした。








(やばい、無理、やっぱ無理)
(無理すんなって言ったばっかだろうが…)
(トマトジュースはデッドボール…です)
(まだまだ先は長ぇか)
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