男と付き合う目安は、その男とキスができるか。そう教えてもらったのは3年前の事で、私は未だにその言葉の意味が理解できていなかった。
キス。口付け。接吻。お互いの唇を重ねる行為。
手と手が触れ合うのとは違う、特別な行為。
そんな行為を異性とするなんて考えられなくて、私は一生異性と付き合うなんてできないね、と諦めていたけれど、口と口を合わせる行為を気軽にやってのける女の子を見ていると、そんなに気にすることはないのではないかと思わされる。
私が重く考えているだけなのだろう。きっとそうだ。
でも、私にはできない。キスどころか、異性に触ることもできない。
強い嫌悪を解かしてくれる異性は、まだ現れない。
「局長、おはようございます」
「おはようございます、玲さん」
絶対的な嫌悪。それは父のせいだと私は思っている。
殴られた事も、斬られた事もあった。それ等全てが私の嫌悪の根源。背中の傷を見る度に、嫌で嫌で仕方がない。
「玲さん、失礼しますよ」
不意に頭に伸ばされた局長の手に、私は身構えてしまった。
自然と刀に伸びる腕を見て、局長は何も言わない。
「寝癖くらいちゃんと直して下さい。エリート失格ですよ」
私の髪を手櫛で整えてくれる局長の手が恐ろしい。
早く開放される事を望んでいると、局長の手が止まった。
「そんなに嫌ですか」
「嫌ではありません」
「なかなか楽しいですね、嫌がる貴女を見るのは」
局長はそう言うと、髪を触っていた手を私の首に滑らせた。
怖い、怖い。その手に力が入れば私は死ぬ。
終われ、はやく終われ。
「私は貴女を殺しませんから、安心して下さい」
「…局長」
「嘘ではありませんよ」
「放して下さい」
「殺しませんし、傷付けることもしません」
「嘘です」
「どうしてそう思われるのですか」
「局長からは、殺気がします」
「玲さん、これは殺気ではありません」
「では、何ですか」
何かが変わる、音がした。
乙女デモクラシー
(これは愛ですよ)
あとがき
タイトルにいみはありません。内容にもいみはありません。
たまにはこういうのもいいかなーと思いまして