「坂田くん、消しゴム落としたよ!」

「おー、さんきゅ」

「どういたしまして」

そんな甘酢っペぇ思い出もあったっけか。あいつらが卒業していった教室の落書きを消し終えて、桜の花びらが舞い込む窓をしめた。
教室の前から三番目の一番左が俺の席で、その隣があいつ。柄にも無く一目惚れなんてして、あいつから告白された。やばいな、もう何年前の話ですかバカヤロー。思い出させやがって。学校ってのは残酷なまでに時間の経過を知らせやがる。時間が止まってるようで、進んでいってんだ。

もう何年前も前なはずなのに、あの席には俺とあいつの影がついて離れねぇ。下駄箱も、体育館も、全部。
卒業していった奴らにとっても学校ってやつはそういうもんになるのだろう。俺にとっても同じだから間違いない。

毎年同じように咲く校庭の桜、配置の変わらない図書室、消えない落書き。そういうもんは一種の呪いみたいなもんだと俺は思うわけだよ。
時間の呪いの中で、俺達教師は生きてる。呪いの中から可愛い生徒追い出すために必死で面倒見てんだ。
毎日毎年同じように過ぎていく時間の呪いの中で、俺はあいつの影にとりつかれてる。もう戻ることもないだろうに、笑っちまう。

いい歳した大人がロマンチスト気取るなとあいつは笑うだろうが、俺はずっと、この呪いにかかった時からずっと、救い出してくれる唯一のお前を待ってたんだよ。
相手になんも知らせないで待つなんてずるいってあいつは怒るだろうな、もう脳内再生余裕だよ、伊達に先生やってねぇ。


「…死んでなんか、ねぇよ」


あいつは生きてる。この時間の呪いにかかった校舎で、俺と一緒に。




その年の入学式の日に、ある一人の女生徒が入学してきた。名前は玲。あいつにそっくりで、あいつと同じ顔で、あの席に座ってる。また、同じように月日は流れていくが、玲だけはきっと、



(先生!タバコ落としたよ!危ないなぁもう)
(おー悪い悪い。ありがとな)
(どういたしまして!)
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