きっと夢中にさせるから


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from さぶちゃん

sub つきましたよ


マンションの下についたお☆

準備できたら降りてきてネ


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いつものメール。私は慌てて上着をつかんで部屋を出た。


今日は佐々木さんと買い物。何を買うのかは分からないからなんとも言えない。

下につくと素人でも分かる明らかに高そうな車が止まっていた。


「お、おはようございます」

「おはようございます。朝食は済ませましたか?」

「まだです」

「私もです。途中にマスドにでも寄りましょうか」

「はい」

助手席に乗り込むと、佐々木さんは車を発進させた。

仮にも婚約者ということもあり、街中で見廻組の人に会うと頭を下げられる。

婚約破棄の可能性だって十分あるんだから公表しない方がいいんじゃないだろうか。そう思ったけど今更かなと思って未だに言ってない。


母にも最近「佐々木さんとはどうなの?ちゃんと何かあったら報告するのよ!」

なんて言われちゃって。


「…佐々木さん、今日は何を買うんですか?」

ずっと疑問に思っていたこと。

聞いてみると佐々木さんはあっさりと答えてくれた。

「指輪です」

「ああ、成程。指輪…」

そっかー指輪かー……え?


「えええええええ!?」

「五月蝿いですよ」

「え、あ…ごめんなさい。って、指輪!?」

だ、だって結婚するかはまだ分からないワケで、なのに指輪って…ちょ、どういうことなの!?


「来週末、幕府主催のパーティが開かれます」

「それと指輪と何の関係が…」

「そのパーティに、貴女も招待されています。私の婚約者として。」

あー、なるほどね。婚約者だもんね。そりゃ招待もされr…

え?


「え、でもあの、幕府主催ってことは」

「当然真選組の方も出席されるでしょうね」

「…ですよね」

「パーティの席で、私と貴女の婚約が正式に発表されるらしいです。そのパーティの際、貴女の左手の薬指に指輪がなかったりしたら」

「あ、だから指輪を?」

「はい。その他貴女のドレスも買います。私の婚約者ですからね。それなりに着飾っていただかないと」


わー…なんか、わー…


「…挨拶の方は私がやりますので、貴女は私の隣で愛想を振りまいていてください」

「…」

「玲さん、そんなに嫌ですか」

「え、あの…嫌ではないんですけど」

「いいチャンスだと思うんですけどね」

「チャンス?」

「このパーティを機会に土方さんが貴女をどう思っているのか分かるじゃないですか」

「ああ、成程…」


なんか、平和な毎日が急に波乱に満ちたものになりそうだ。

私の隣にいるのは私の2こ下の年下の不器用な真選組副長じゃなくて

私より年上のとても器用な見廻組局長。


真逆な人。そんな表現がふさわしい。

本来なら会う可能性なんてゼロにひとしい人が私の隣にいて、婚約者になっている。

これも恋、って奴が私の運命を変えてしまったからなのかもしれない。

…なんか土方君が恋しくなってきたなぁ。






「あの、婚約指輪ってどういうのがいいんですかね」

「無難にダイヤでいいと思いますよ。永遠の象徴ですし」

「でも、本当に結婚するかも分からないんですよ?」

「なら、指輪はプレゼントします。私が無理を言って婚約していただいているんですから、指輪くらいどうってことありません。エリートですから」

「いや、エリート関係な…ありますね」


私には指輪を選ぶなんてできない。

だって優柔不断なワケで、それに婚約指輪なんて買うの当たり前だけど初めてで。

まだ先が分からないんだから安いものを、そう思うけど、パーティで私の指に安い指輪がはまっていたらエリートの婚約者らしくないし…。


「そんなに迷うなら、私が選びましょうか」

「いいんですか?」

「派手なのはお嫌いですよね」

「はい。シンプルなものがいいです」

佐々木さんが一人で指輪を選んでいるのを、少し離れて見守る。

…こんな場所に土方君と来れる日が来るのかなぁと思ってみたりしたけど、実感がなかった。

「旦那さん、とっても熱心なんですね」

「えっ…あ、はい…」


店員さんは私の隣に来て、佐々木さんをほほえましそうに見守っている。

「きっとお幸せになれると思いますよ」

「…はい」


ごめんなさい。お幸せになるかは分からないんです!

…でも佐々木さんと結婚する人は幸せなんじゃないだろうか。

エリートだし、話に聞いていたよりもずっとやさしい人だし

メールはしつこいけど、いい言い方をすればマメってことだし。

背高いし、公務員だし。


佐々木さんにもいい人が現れるといいなぁ、なんて思ってみたり。



ぼーっと佐々木さんを見ていると、目が合った。いいものを見つけたんだろう。

佐々木さんの隣に行くと、そっと左手を持ち上げられた。


「これなんて、どうでしょうか」


そっと薬指に通されたのはプラチナの指輪。ダイヤの両端にはピンクダイヤのかわいらしい花。

見るからに高そうなその指輪が自分の左手に収まっていることに緊張する。


「あ、あの…可愛らしいですね」

「そうですね」

「私に、似合ってますか」

「ええ、とても」

なんだか、ちょっと照れくさい。

左手をそっと掲げてみた。光が反射してキラキラと指輪が光っている。

流石エリート。指輪を選ぶセンスもいいんだ。


「…でも、高いんじゃないですか?」

「私の婚約者ですからね。これくらいのものを付けていないと」

「そ、そうですよね…」


左手から外された指輪は店員さんのもとへ。

お会計を済ませている佐々木さんを遠くから眺めていると、なんだか複雑な気持ちになってきた。

どうして佐々木さんが私と婚約したのかもわからないし、本当に結婚するかもわからない。

それなのに婚約者になって、私には好きな人がいる。

改めて考えてみると本当に月並みな話。今時こんなシナリオみたことない。


「…なんか、変なの」

好きでもない人がこうして隣にいるのに。私の手をとって、指輪をはめてくれたのに

私は嫌じゃないなんて。


「…まさか」


一瞬変な考えが浮かんでしまった。馬鹿みたい。


「行きますか」

「は、はい」

繋がれた右手に驚いて佐々木さんを見れば、目で「婚約者ですから」と答えた。

そっか、指輪買った2人が手も繋いでなかったらおかしいか。

…手を繋ぐのも、嫌じゃない。



――――――

―――









彼女の左手の薬指に指輪をはめて

嬉しそうに、すこし照れくさそうにほほ笑む彼女を見て改めて自分がどれほどまでに彼女に惚れているか分かった気がした。


「ドレス、ですか…」

「はい。当日私は隊服ですから、私の隣にいても合うようなものを選んで下さい」

「そんな、ハードル高いですよ佐々木さん」

「なら、私も選びますか」


彼女は色が白い。きっと赤が似合う。

ただ、派手なものは好かないようだから落ち着いた色合いのものがいいだろう。


「玲さん」

「はい」

「頬が赤いですね。のぼせましたか」

「…分かっちゃいますか」

「ええ。少し外に出てくるといい」

「分かりました。じゃあ、ちょっと失礼します」


彼女は薔薇と言うには地味で、かと言って薔薇を引き立てるカスミソウと言うには力強い。


彼女が戻ってくる前に、いいものを見つけよう。

私はエリートですから、彼女に似合うものを見つけられる。







「ただいま帰りました」

「おかえりなさい」

帰ってみるとドレスは決まったみたいで、店員さんが笑顔で私に近づいてきた。

「試着をしてきて下さい。靴なども選んでおきましたよ」

「え、あ…はい」

いきなりすぎるでしょう!


さぁさぁこちらに!と連れて行かれて、試着室へ。

店員さんに手渡されたのは、私には似合わないんじゃないかと不安になるワインレッドのドレス。

佐々木さん、私赤とか派手な色は無理ですって

ワインレッドのドレスはAラインで、丈は膝よりちょっと上。

胸にはフリルがあしらってあるけど、そこまで派手じゃない。

逆に胸の大きさを隠せていいかもしれない。…まさか佐々木さん、私の胸の無さをカバーするためにこれを選んだんじゃ…

くっ、悔しい。でもありがとうございます!


ドレスを着てみると、なかなかいい感じだ。

着ないうちから無理って言うのはやめようと思う。

最後に胸の下のリボンを結んで、終わり。

黒いヒールの靴を履いて、ちょっと調子に乗ってくるりと一回り。


「似合っていますね」

うおっ、びっくりした。

「そ、そうですか?」

「貴女は綺麗な肌をしていますからね。赤が映える」

鏡に映る私と、佐々木さん。

白い隊服と赤いドレスは、隣に立っているのが当たり前のようにそこにある。

来週、このドレスを着て、左手に指輪をはめて、佐々木さんの隣にいるんだ。

それを、土方君も見る。


…なんか、付き合っているワケでもないのに罪悪感。

ごめん。私が好きなのは土方君だから。


「これでいいですね」

「はい」

「では、帰りますか」

ドレスと靴を佐々木さんの車に積んで、助手席に座る。

…なんか、疲れてしまった。


「寝てもいいですよ」

「え、でも…」

「着いたら起こします」

「…はい」

意識が落ちて行く。

頭を撫でられた気がしたけど、きっと気のせいだ。








「…まったく」


私も男なんですけどね。

隣で寝息を立てる玲さんの頭を撫でる。

サラサラとした髪が気持ちがいい。


彼女のあの白い首筋に、肌に朱をつけたい。そう思えど彼女の心には別の男がいるのだ。


玲さん、私は貴女が欲しいんですよ。





きっと夢中にさせるから


(ん…ひじかた…くん)
(…夢の中でも、土方さんですか)





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