忘れていたことを今朝の電話で思いだした。
『明日のお見合いなんだけど、着物とか全部こっちで用意するからね!上手くやりなさいよ』
…やけ酒なんてしなきゃよかった。
お酒飲んだ勢いでお見合いするなんて言って、それを全然覚えていなかったという流れ。
…もう、お酒やめようかな。
お母さんから送られてきた相手の人の写真を見ると、なかなかいいおじさま、っていうかなんて言うか…紳士?おじさまってほどでもないかな。
歳は私より上らしいけど、モノクルで紳士に見える。
母さんが、相手は見廻組の局長さんなのよー、玉の輿ねーってキャーキャーしてたけど、この人がそんなに偉い人だとは思えない。っていうか思いたくない。
っていうか、なんでそんなエリートが私みたいな平凡な女とお見合いなんてするんですか。
「…はぁ」
こんなエリート相手で、しかも国家権力とのお見合いを断ったりしたら世間様からの目が怖い。
…とにかく、気に入られなきゃいんだから
明日、頑張ろう…
*
「…アイツが?」
「はい。明日見廻組の局長と見合いをするという情報が入っています」
「…何考えてんだアイツ」
最近連絡がないと思えば、佐々木と見合いする、なんて
本当に、訳がわからねぇ
だがよく考えてみれば、連絡なんて近藤さんが酔い潰れた時くらいしか来ねぇんだ。
お見合いするから、なんて理由で俺に連絡なんてするワケがねぇ。
近いと感じていた距離は、思ったより遠かったらしい。
「…ちょっとタバコ買ってくる」
止めさせよう。見合いなんか。
相手は佐々木だ。何をたくらんでいるか分からねぇ。
もしかしたら俺と繋がりがあるという事を知って見合いをするつもりなのかもしれない。
勢いのまま屯所を出て、アイツの働いている会社の近くの公園に向かう。
時間的にも、そこにいる筈だ。
アイツは、何も分かってない。
俺が、どれだけ自分に振り回されているかも
俺が、自分をどう思っているのかも
俺より2つ年上ってだけで子供扱いして
実際は自分の方が餓鬼なのに気付いてねぇんだ
「…おい」
自分でも笑っちまうほど不機嫌な声。
振り返るアイツが、少し驚きながら口を開いた
「どうしたの、土方君」
「どうしたのじゃねぇよ」
きっとアイツにしたら何のことだか分かってないだろう。いい気味だ。勝手に見合いなんか受けやがって。
「言ってくれないと分からないんだけど」
「見合い、受けんな」
「なんで土方君が知ってるの?…っていうか、土方君には関係ないでしょ」
「関係あんだよ」
「意味がわかりませーん。じゃあね」
自分の横を通り抜けようとするアイツの手を掴んだ時に、自分がどんだけ意味が分からないことを言っているのか気付いた。
「…な、に」
「わ、悪ィ」
慌てて手を離すと、アイツは走って何処かへ行っちまった。
…初めて、触ったかもしれない。
付き合いはそこそこ長い筈なのに、触ったのは初めてなんて。
距離は、遠かった
急いで離した手
(誤解、させるようなことしないでよ)
(そんなんじゃないくせに)