あああああああ
ああああもう思い出しただけでも恥ずかしい!ダメだもう死ねる!
(過去形か)
(ごめん。いや、本当にごめん)
(謝ることじゃねーだろ別に)
(いや、マジでごめん。今お母さんのプリン食べちゃった時くらい謝ってる)
(俺の想いそのレベル!?)
あれから土方君と告白した後だというのに普通の会話をしながら帰った。
家まで送ってくれて、なんかこう…むずがゆい感じがした。
(ありがとね、土方君)
(礼はマヨネーズで)
(なにその油まみれなお礼)
(あ、そうだ)
(ん?)
(好きだ)
(はっ?)
(いや、だから好きd)
(言わなくてよろしい!ななな、なんで好きとかそういうことを…)
(フられた後だからこそ、後腐れもなくサラッと)
(言わなくてよろしい!だっ、大体そんなに言われても答えられないものは答えられないのであってそれは所謂宇宙の真理とか、そういう…)
(別に、答えてほしいワケじゃねぇ)
(…うん)
(俺が言いたいだけだ)
(さ、さいですか…)
(じゃあな。腹出して寝るなよ)
(余計なお世話!)
べ、別になんとも思ってないワケじゃないから好きとか言われるとやっぱり照れるワケでして…
しかもいい声で言うから余計に照れるといいますか。
あーもうどうしようこれ。
っていうか、やっと振り切ったのに佐々木さんからメールが全然来ないんですけど。
私佐々木さんに言いたいこととか色々あるんですけど…
…仕方ない、偶には私からメールでもしようか。
――――
sub どうも
最近全然メールがなくて心配です。大丈夫ですか?
近いうちに佐々木さんに話がしたいのですが、大丈夫な日を教えてください。
メール待ってます。
――――
返信来るのは一分以内。っていうか遅くて1分だからね。
…あ、メール来た…って、メールじゃなくて電話?
珍しいこともあるんだなぁ
『もしもし』
「もしもし」
『メール見ました』
「あ、はい…」
なんか改めてメール見ましたって言われるとちょっと照れるといいますかなんと言いますか。
『私もお話したいことがあるので、今からそちらに向かいます』
「今から、ですか?」
『はい。出来る限り早い方がいい』
「分かりました…待ってます」
案外、早くチャンスっていうのは巡って来るのかもしれない。
――――――
―――
…
「こん、ばんわー」
「こんばんわ」
久しぶり…だなぁーなんて。
いつもと同じ佐々木さんなように見えて、とても機嫌が悪いことに気付く。
出会った頃には分からなかった微妙な変化も、今なら手に取るように分かる。
それくらい、一緒にいたんだ。
佐々木さんの車に乗って、何処に向かうかは分からないけど、佐々木さんは車を走らせる。
助手席でただ座っているだけの私には、佐々木さんが何を考えているかはよく分からない。
「…私が何故、貴女と婚約したか分かりますか」
「いいえ。…ずっと、気になっていたんですけど、いくら考えても分からなかった」
信号が赤になる。
いつか、私が車で寝てしまったとき、佐々木さんは私の頭を撫でてくれた。
撫でてくれた手は温かくて、エリートなのに不器用で。まるで人に触れるのに慣れていないような感じがした。
意識が眠りに呑まれる時だから、確かかは分からないけど。
違うかもしれないけど、私の思い出。
「…どうして私なんかと、婚約したんですか」
「よく考えれば分かる筈なんですけどね、玲さん。
私が貴女を、どれだけ想っているのか」
信号が青になる。
佐々木さんの言葉を呑みこむまで、時間がかかる。
「あのお見合いは、私が仕込んだものです」
それは分かっていた。
私みたいなエリートとはなんの縁もない女が見廻組の局長様とお見合いできる筈がないから。
「土方さんと令嬢の娘さんを出会わせたのも、私です」
…そこから仕組んでいたのは予想外。
土方君とお金持ちの娘さんがデートする。そう聞いて総悟君が黙っている筈がない。きっと私にその事実を知らせるか、誤解させるかする。
「最初は貴女の想いなんて無視をして強引に結婚するつもりでした」
「なのに、どうして」
「貴女が欲しくなってしまったんですよ。心まで、全て」
「なんで、ですか」
どうして、そこまで私を
「最初は、以前言った通り興味でした」
*
真選組副長の友人であり、想い人。それがどんな人物であるのか興味を持った。
調べてみれば至って平凡な生まれで、平凡な人生。
顔は悪くないようで、性格も悪いとは言えない。
そう、普通。
なのに、鬼の副長が想いを寄せる。
それを不思議に思わない人間がいたらお目にかかりたい。
偶然貴女を町で見かけた時に直感しましたよ。
人を惹き付ける力があるのだと。
「私も、貴女に惹かれた」
「私には、そんな力ありませんよ」
「そうですか」
「ええ」
「そうならよかったですね」
もしもそうなら、貴女も私も、お互いに会わなくて済んだのですから。
*
それからはよく覚えていない。
お互い無言で、何も言わなくて。
私は言いたいことも言えなくなって。
佐々木さんの運転した車の着いた先は真選組屯所で。
「さようなら」
その言葉の意味も直ぐには分からなくて。
屯所の前で泣いていたのを助けてくれたのは土方君。
沈む意識の中で、それは分かっていた。
*
「酷い顔でさァ」
「五月蝿い」
「佐々木にフられたんだとよ」
「五月蝿い土方君。中性脂肪のかたまりのくせに」
「おっ、いい調子ですぜ。そのまま土方の心をポッキリと…」
「あーもう、お前ら五月蝿いぞ!傷心の玲ちゃんの気持ちも考えてあげなさいよねまったくもう」
「「「…お母さん?」」」
一晩屯所にお世話になった私は、今朝ごはんを食べている。
真選組の朝ごはん美味しい。量多いけど。
「…話を聞いていると、それはフられたんじゃないと思うけどなぁ俺は」
「やっぱり近藤さんもそう思うか」
「玲ちゃん、辛かったなぁ…」
「おい原田、気安く玲を呼ぶな」
「うわぁ土方さん、まだ好きなんですかィ」
「うるせぇ」
にぎやかなのはいいけど、賑やか過ぎる。っていうか五月蝿い。
「玲さん、メールはしてみたんですか?」
「…する勇気がなくて、未だにしてない」
「分かる。分かるぞ玲ちゃん。俺もお妙さんのこととなると勇気が出なくて」
「近藤さんは勇気出過ぎてんじゃねぇか」
「俺が思うに、佐々木殿は何か勘違いをしてるんじゃないかな」
「…勘違い?」
「分かるぞ。俺もよくストーカーだとお妙さんに勘違いを…」
「アンタは黙ってろ」
なんかまともにアドバイスをくれているのは山崎さんだけなんですけど…
「とにかく、一度ちゃんと話してみないと」
「だよね…いや、でも勇気が」
「フられたら俺の胸を貸してy「セクハラですぜ土方さん」
「でも、このままじゃやっぱりダメだと思うんだよね俺は。」
確かに山崎さんの言うとおり。
このままじゃダメだ。
せっかく佐々木さんの気持ちも聞けたわけで。ここで頑張らないと女が廃るってものだ。
「玲ちゃん、携帯なってるぞ」
あれ誰からだろ…
「信女ちゃんからだ」
どうしたんだろ。っていうか電話なんて珍しい。
いっつも要件だけ書いてあるメールなのに。
「ちょっとごめんね」
断ってから席をはずして電話に出る。
信女ちゃんの声を聞くのも、久しぶりだ。
「もしもし」
『玲。異三郎が荒れてる』
「荒れてるって…」
『玲が、真選組の副長と一緒にいるから』
「え?いや、でも私土方君とは何もないって言うか断ったっていうかつまりその」
『迎えに行く。待ってて』
「え、ちょ…えええええ」
つまり、山崎さんの言ってたのは正解だったってことだ。
でもなんで私が土方君に告白されたこと知ってるんだろうか。
謎は残るけどとりあえず朝ごはん食べないと。
「いってきまーす」
「ちょ、何処に」
「ちょっとそこまで!」
いや、どこだよ。
というツッコミを無視して外に出る。外には信女ちゃんがいて、マスドの箱をチラチラ見せてきた。
…あとでいただきます。
*
いつぞやのパーティのテラスは正月休みで営業していないということもあってガランとしていた。
やっぱり冬場だと冷える。なんかすっごい寒いなぁと思ったら上着着てなかった。だから寒いんだよ私の馬鹿め。
これは風邪をひくかもしれない。もう風邪ひいたら佐々木さんのせいだ。
「あー…寒っ」
自分で自分を抱き締めるようにして寒さをこらえていると、ふわりと何かが被される感覚。
見てみるとそれは見廻組の隊服のコートで、ふわりと薔薇の香りがした。
「貴女は馬鹿ですか」
あ、デジャヴ。
「馬鹿は貴方ですよ。佐々木さん」
コートを手で押さえて、風で脱げないようにする。
ちょっと風が強いから、髪が風に揺れている。
「私、土方君フっちゃいました」
「やはり貴女は馬鹿なんですね」
「こんな馬鹿に惹かれたのは誰ですか」
「さぁ」
「おい!」
振り返って、改めて佐々木さんを見てみるとやっぱり寒そうだ。
あの夜以来で、なんだかちょっと気まずい気もするけど、あんまりそう感じない。
「佐々木さん、驚かないで聞いて下さいね」
今からあなたに告白します
(驚きましたか、佐々木さん)
(…コート返して下さい)
(嫌です。ほら、行きますよ信女ちゃんも待ってますから)
(玲さん)
(はい)
(愛しています)