冬に食べる肉まんほど美味しい肉まんなんて食べたことがない。
それくらいコンビニの肉まんは偉大なのだ。
仕事帰りに肉まんを買って、公園で食べる。夕日が綺麗で、なんだかいつもより美味しく感じた。
公園のブランコに座って、ちょっとブランコを漕いでみたりなんかして。
土方君に見られたら餓鬼か、って鼻で笑われそうだな。っていうか、絶対笑われる。
肉まんを食べ終わったから帰ろうと思ったけど、この綺麗な景色をもっと見ていたくてやめた。…寒いわ、そろそろ帰ろうかな。
「玲」
「あ、土方君」
なんという偶然。もしかして運命なんじゃないですかね。なんちって。
「アンタ、こんな所で何してんだよ」
「ん?別に何も。土方君は見回り?」
「ああ」
土方君はブランコの周りの柵に腰かけて、煙草に火をつけた
「サボリだ」
「こんなんサボリに入んねぇよ」
「えー」
「えーってなんだえーって」
今思えば、お見合いの前と比べると距離は近くなった。
理由がないと会わない2人だったのに、今じゃお互いくだらないことでメールしたり、電話したり。
一緒にご飯食べたり、出掛けたり。
もとから一緒にいるのは好きだったけど、一緒にいる時間が長くなってもっと好きになった気がする。
それでもなんだか味気なく感じるのは、自分の中にもう一つ別の気持ちがあるからなのか、何なのか。
「寒いねー」
「当たり前だろ。風邪ひくぞ」
「土方君今日は歩き?パトカーないの?」
「パトカーをタクシー代わりにすんな。歩きだ、歩き」
夕焼けのオレンジが、土方君まで赤く染める。きっと私も真っ赤なんだろう。
おのれ夕日め、覚えていろ。
「あー寒い。そろそろ帰る」
「そうしろ…あ、やっぱりちょっと待て」
「ん?」
土方君はタバコを一口大きく吸ってから携帯灰皿でタバコを消すと、いつにもまして真剣な顔で私の目を見た。
もしかして、まさか。
「お前に言っときたい事がある」
「マヨネーズは最高、とか」
「確かにマヨネーズは最高…って、そうじゃなくてだな」
言わないで下さいお願いします。
今土方君が言いたいことを言ったら、今のままじゃいられなくなって
私は、どうすればいいのか分からなくなる。
*
アンタが、俺の事を想っていると分かっても俺は不安で仕方なかった。
最初は時間に余裕があると思ったが、案外そうではなくて。
アンタの想いが俺から、佐々木に移って行くのに気付いてしまってから
やっと、時間がないことに気付いた。
黙ってれば美人で、性格も悪くない。なのに色恋には疎いから恋人もできない。そんなアンタだからと俺は安心していた。
安心して、自分から行動を起こさずに偶に会って、偶に連絡をして。それでも十分だと思っていた。
「アンタが好きだ」
こんなセリフを口にする日がこんなにも早くなるなんて思ってもいなかったのに
俺の勝ちは目に見えていたのに
今じゃ、負ける方の確立の方が高いなんて
そんな困った顔すんな
もっと早く言ってたら
お前は笑って頷いたのか
――――――
―――
…
「アンタが好きだ」
きっと、私は困った顔をしている。
だって、事実困っているから。
好きな人に、こんなことを言われたら泣きだしてしまうほどに嬉しい筈なのに。
なのに、なんで困っているのか。
これで婚約は破棄されて
私の左手薬指の指輪は外されて
佐々木さんとは何の関係もなくなって
土方君と、幸せになれる筈なのに
「…言ったろ、結婚なんかさせねェって」
「…知ってたんだ」
「…悪い」
「なんでもっと早く言わないのこのニコチンマヨラー」
「…」
「もっと早く言ってたら、こんなに変な感じにならなくて済んだのに」
完璧に八つ当たりだ。
ごめん土方君。
今ここで私が
私も、土方君が好きだよ。そう言ったら
きっと、終わってしまう。
だから
「私は、好きだったよ。土方君」
終わらない恋になれ
(終わらせるわけにはいかないから)
(異三郎、玲が告白されてた)
(…そうですか。もう終わりなのかもしれませんね)