その笑顔は反則だから





「あら佐々木さんもいらっしゃっていたんですね」


とても甘い声音。一度聞いただけで直ぐに分かる。この人佐々木さんのこと好きなんだ…と。


「ええ。お会いできて光栄です」

「こちらの方は?」

うわー、明らかに敵視してるってこの目は。

「私の婚約者です」

婚約者、その一言で女の人はとても傷ついたような目をしていた。
なんか悪い気がしなくもないですすいません…。


「佐々木さん、婚約なさったんですね…」

「ええ。今夜はそれを発表する為に参加させていただきます」


あーもう、女の人の目線が痛い!

いたたまれなくなって目を伏せると、聞き覚えのある声がした。

っていうか、ぶっちゃけ聞きたくなかった声。…なんでいるんだゴリラ。


「おう近藤、よく来てくれたな」

「いやー、とっつぁんの頼みなら何処へでも行きますよー」

「トシも、今日は楽しんでいってくれよ」

松平さんなぜいるんだ…と思ったけどそういえばこのパーティ幕府主催だった。ちくしょう。

あ、今土方君と目が合った。

思わず組んでいた手を離してしまいそうになったけど、そこは頑張った耐える。


「さs…い、異三郎さん、真選組の方に挨拶をして来ますね」

危ない。佐々木さんって呼ぼうとしてしまった。

セーフセーフ。


佐々木さんのそばを離れて真選組の2人のところに行くと、ちょっと安心してきた。よかった二人がいて。

いや、あんまりよくないんだけど。


「おおおおお!!玲ちゃん!」

ああもう、五月蝿いゴリラ

「こんばんわ、近藤さん、土方君も」


見違えたーとか、綺麗だーとかはしゃぐ近藤さんに若干ひきながらも、何のコメントもしてくれない土方君の方を見る。

土方君の視線は私の左手薬指に向いていて、なんだか気まずくなった。


「綺麗な指輪だなぁ。なんか、玲ちゃんが本当にお嫁に行っちゃうみたいだ」

もしかしたら本当に、お嫁に行っちゃうかもしれないんですけどね。

「…似合ってる」

「え、あ、ありがとう」


嬉しすぎる。嬉しすぎてなんて言えばいいかわからない。

ドレスを誉めてくれて嬉しい。似合ってるって言ってくれた。

佐々木さんが選んでくれたドレス。

…あれ?

土方君が誉めてくれたから嬉しいの?

それとも、佐々木さんが選んでくれたドレスを誉めてもらえたから嬉しいの?


なんか、よく分からなくなってきた。


「どうも、お久しぶりです」

ふわりと感じた体温、そして、肩に回される腕。

佐々木さんだと直ぐ分かった。


「佐々木殿、お久しぶりです」

「ええ、あの一件ぶりですね」


あの一件、って土方君と佐々木さんが斬り合った、っていうあの出来事のことだろうか。

なんだか土方君から殺気を感じる。


「いつも私の婚約者がお世話になっているようで」


皮肉っぽい…
皮肉っぽく聞こえるよ佐々木さん!


「いやいや、玲ちゃんにはいつもこっちがお世話になって…」


お父さん!?いや、お母さん?ちょ、本当に黙っててくれないかなゴリラ。


「特に土方さんのお話はいつも聞いていますよ。玲さんと仲がよろしいようで」


佐々木さん、いつもよりちょっと毒入ってない?っていうか、なんか土方君と佐々木さんの間にバチバチ火花が散っているように見える!

え、そんなに仲悪かったの二人とも


「さs…い、異三郎さん、他の方にも挨拶に行かないと」

とにかくこの二人を一緒にしてはおけない。

だって今にも刀抜きそうだもの!

抜きそうっていうかもう絶対抜くってこれ


「そうですね。…それでは、また」


また、なんて誰も期待してねーんだよぉおお!落ち着けトシ!

なんていうやりとりが後ろから聞こえてくる。

優越感に浸っているであろうに顔色一つ変えずにいる佐々木さんに溜息をついた。

なんというか、本当によく分からない人と婚約してしまったなぁって感じ…

もう腕を組むことに慣れてしまったことをちょっとだけ恥ずかしく想いながら、私は佐々木さんの婚約者として微笑み続けた。



――――――

―――










壇上で挨拶をしている佐々木さんをーぼーっと見つめていると、なんだか恥ずかしくなってきた。

こんなにたくさんの人の前で、佐々木さんの婚約者だって発表されて。

たくさんの人の中には私の想い人もいて。

なのに私はあんまり嫌じゃないなんて。


実は私マゾなの?なんて考えていると、挨拶が終わったらしく拍手に包まれた。

壇上から降りてきた佐々木さんに肩を抱かれて、少し恥ずかしいけど微笑む。

完璧に、婚約者のフリ。でも、フリな筈なのにちょっと幸せかも、なんて。


歩き疲れて、ちょっと佐々木さんから離れて外のテラスに出る。

真冬だから寒い。でもシャンパンで酔った体を覚ますのには丁度いいのかもしれない。


「貴女は馬鹿なのですか」

晒されていた肩に、何かを被せられる感覚。

見てみると、それは佐々木さんの隊服。

振り向くと、隊服のコートを脱いでベストとワイシャツ姿の佐々木さん。

コートは佐々木さんがさっきまで着ていたからかあたたかくて、自然と笑顔になれる。


「女性が体を冷やしてはいけませんよ」

「ありがとうございます。…私コートを着ていない佐々木さん初めて見ました」

「…返して下さい」

「嫌です」


しばらくコートを取り合って、その後しばらく沈黙。

でもあんまり気まずくはなくて、なんて言えばいいんだろうか…。胸が、あったかくなった気がした。


「…冷えますね」

「そうですね」

「貴女のせいですよ」

「…星が、綺麗ですね」


本当に寒そうなエリートの右手に、そっと自分の手を重ねる。

私はきっと酔ってるんだろう。

きっと、そうに違いない。


「…温かいですか?」

「ええ。もっと欲しくなります」

「あげませんよ。これが私の精一杯ですから」

なんだか今は、機嫌がいい。

普段言えないことだって、言える気がした。







彼女は酔っているようで、機嫌がよかった。

少なくとも、自分から手を繋いでくるほどには。


「異三郎さん、私、貴方に会えてよかった」


彼女の微笑みは心からのもので、ずっと自分には向けられないものだとあきらめていたもの。

もしかすると、いや、きっと




その笑顔は反則だから


(佐々木さん、戻りましょうか)
(ええ。コート返して下さい)
(嫌です)
(あ、こら待ちなさい)


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