バカ、意識しすぎ




正直、緊張しすぎて朝からドキドキしっぱなしだった。


今こうして佐々木さんの車の助手席にいても、まだドキドキしてる。


「そんなに緊張しますか」

「あっ…当たり前じゃないですか」

「心配しなくとも、私がリードして差し上げますよ」

「は、はい」


向かっているのは美容院。私の髪をセットして、化粧をして、そしてドレスを着て…つまり、そういうこと。


今日はパーティ当日。いつも通り隊服の佐々木さんが余裕に見えて、なんだか悔しい。

緊張してるのが私だけみたいじゃんか。いや、実際そうなんだけど。


「終わったら連絡が入るようになっていますので」

「あ、はい」

「指輪は、後ほど」


そう言って美容院に着いてから行ってしまった佐々木さんを見送って、私はいざ変身。


指先から、顔から、髪まで。まるでシンデレラのように変わっていく。

自分に自信なんてないけど、佐々木さんが選んでくれたドレスのおかげで少しは自信が湧いてきたかもしれない。


目をつぶって、開ける頃には綺麗に、なっていればいいな。


そう思って、目を閉じた。








「佐々木様、お待ちしておりました」

彼女が美容院にいる間に、どうしても手に入れておかなければいけないものがあった。


薔薇の香水。

あまりしつこい香りではないものを選んだ。


香りというのは、時に人を縛る鎖になる。

同じ香りを纏っているだけで、特別な関係なのだと悟らせることができる儚い鎖。


案外、私も独占欲が強いらしい。

印をつけることができないなら、目に見えないもので私の所有物だと分からせてやろうなんて。

――――――

―――





「…あのー」

「………」

「何か言って下さいよ」

「…綺麗ですよ」

「もっと気の利いたことは言えないんですか」

「言って欲しいんですか?」

「ま、まぁ…それは、人並みに?」


瞳を開ければ、そこには私らしき人物。

化粧で人って変わるんだなぁとしみじみ感じて、ドレスの裾を持ってみたり。

やっぱり誉めてほしいから言葉を強請ってみたけど、ちょっと照れくさい。


「左手を」

そう言われて左手を差し出すと、そっと嵌められる婚約指輪。

もう、本当に照れくさい。ちょっとどころじゃないくらい照れくさい。


「あと、これを」

左手の手首に吹きかけられたのは香水で、薔薇のいい香りがした。

ワインレッドのドレスに合わせたのかな?

なんか、佐々木さんからも同じ香水の匂いがするような気がしなくもない…


「婚約者ですからね」

ああ、成程…って

「婚約者関係ありますか?」

「さて、行きますよ」

「ちょ、無視しないでくださいって」


佐々木さんの車に乗り込むと、なんだか緊張してきた。

さっきまでは佐々木さんのおかげかあんまり緊張してなかったんだけど…アレかな?やっぱりドレス着ると緊張するのかな


「本当に綺麗です」

「何がですか?」

「貴女がです」

「冗談ですか」

「まさか」

ドキドキと、心臓が鼓動をうっている。

好きでもないのに、なんでこんなにドキドキするんだろう。

きっと、緊張のせいだ。そうにきまってる。


「佐々木さん」

「はい」

「…なんでもないです」


今口を開いたら、何を言い出すか分からない。

きっと、薔薇の香りに酔ってるんだ。

そうじゃなかったら、私は


――――――

―――








「ほら、行きますよ」

「…でも、こんなこと聞いてなかったですし…」

「婚約者ですから、当たり前です」

どこら辺が当たり前なんですか!

「ほら、早くして下さい」

ああもう、やるっきゃないか!


勢いに任せて、佐々木さんの右腕に手をそえる。

腕を組むなんて、聞いてない。

「もっと近づいて下さい」

「…」

「玲さん」

「…」

「仕方ないですね、私が肩を抱くという方法もありますが」

「失礼します…」

近い、近い。

無理やり捨てたさっきの変な感じも、再発してきた。


「…相変わらず胸がな「佐々木さん?」

掴んだ腕から伝わる体温に、頬が染まる。


顔色一つ変えない佐々木さんを見ていると、なんだか私が考え過ぎているように感じる。


…でも、仕方ないんです。初心ですから!






バカ、意識しすぎ


(行きますよ)
(はい…あ、質問なんですけど)
(なんですか)
(どうして薔薇なんですか?)
(私と土方さんに縁があるんですよ)
(…?)

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