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危険なものには※
主にサンホラ
Twitterでイドさんいっぱい

sh/drrr/小話/返信

コルイドで小話


「…名前を呼べない?」

カモメが飛び交う港町の朝、突然宿に押し掛けてきたイドルフリートは挨拶がわりに妙なことを呟いた。

「ああ、声が出なくなった」

「…出てるじゃないか」

「そうではなくて、君の名前を呼ぶと声にならなくなる」

喉を両手で温めるように掴みながらイドはそう説明した。俺は埃まみれの机に大量の本や羊皮紙を積み上げ、ふうんと相槌を打った。

「…信じてないな」

「信じるも何もなあ…普通に呼べるだろ」

「…コ…、ル、っ……無理」

「無理って」

けほ、とイドは咳き込んだ。乱暴に言葉を紡ごうとする喉が震えるのを目の当たりにする。此方を見て眉をしかめ、苦しそうな顔をするので、案外本気ではないかと思い始めた。何より、イドはこんな阿呆らしい冗談は口にしない。

「声に問題はなさそうだけどな」

「まあな。体も特に問題ないから、神の気紛れとしか言い様がない。非常に不愉快だが」

「気持ちの問題じゃないのか。昨晩俺のこと考えすぎちゃったとか」

「昨晩は良いポテンシャルの女と遊んでたから君のことなど欠片も思い出していない」

「…あっそ」

冗談をばっさりと切られる。可愛くねえと言いかけた口は閉じた。特に困った様子もなく客観的に分析しているところを見ると、本人は其処まで深刻な問題とは受け止めていないようだ。まあ、唐突に名前を呼べなくなったくらいで生死に関わることはないか。
しかし機嫌は悪そうだ。先程から眉をしかめた表情のまま、何もしてない筈の俺を睨み付けている。そんな目をされたって俺にだって心当たりはない。
特に忙しい仕事に手を付けていたわけではないため、適当な羊皮紙を机に並べた後にイドに向き合った。

「お前さ、言えないのはコルテスだけ?」

「そうだが」

「だったら名前は呼べるだろ。フェルナンドって」

「………」

「なんだよその顔」

凄く複雑そうな顔をされた。逃げるように視線を逸らし、何かを隠すように腕を組む。

「先程ベルと話していた時に丁度君の話になって、其処でコ…閣下だけが口に出来ないのに気付いてな」

「おい閣下は良いから名前で呼べよ」

「というわけでこの事は彼も知っている。だが他の奴らに言うなよ、説明が面倒だ。私の話は以上だ邪魔したな」

「おま…っ逃げんなイド!」

イドは早口で捲し立ててさっさと部屋を出てしまう。背中を掴もうとして伸ばした手は、彼が乱暴に閉めた扉に遮られた。小気味良い音が扉越しに響き、遠ざかっていくのを聞いて溜め息をつく。

「閣下じゃすぐ皆にバレるだろうが…」

何だかんだ言ってよく名前で呼んでくるから、そこまで拒絶することもないと思うのだが。崩れ掛かった書物を整理しながら、これが終わったら是が非でも呼ばせてやると我ながら意地の悪いことを決意した。

―――
からかって呼ぶときもそういう雰囲気に呼ぶときも実は毎回ちゃんと意識しているから日常で呼ぶのは照れるんだよってそんな話。というのはコルテス視点では表現しにくかった。
この後イドさんはちゃんと名前で呼ぶようになってくれますが、間違いなく君とかお前が増える。他の人間とコルテスの話をするときには、フェルナンドって言わないと通じないので、ベルやアル辺りに「常にノロケられている感覚で非常に不愉快なんですけど」って何故かコルテスが睨まれる。コルテス悪くない。
原因?私が楽しいから。

2012/01/31 09:53

テヘペロッ

小説は書かないが小話を書かないとは言っていない(駄目人間)ってなわけで書いちゃいました。



えろすです。肉体的イドメル、精神的メルイド。コルイド前提です。エリーゼ先輩もいます。

↓内容
前回此方で呟いていた、コルテスへの想いを死後も衝動として抱いていてメルヒェンを代わりに抱いちゃうイドさんのお話です。拍手で読みたいと言ってくださった方がいらして、私も書きたかったので形にしました。ありがとうございます!3月まで待てなかっt
コルイド前提だけどメルをコルテスの代わりにするので実質的にはイドコルだなこれ(^q^)すみませんリバ好きっす。でもコルイドだと言い張る。


2011/12/03 00:14

チャットルームB(drrr)

日本は梅雨が開けると猛暑が訪れる。7月に入ってから、今年も例に漏れず熱中症で倒れるかと思うほど暑い日が連続した。地上のアスファルトが熱を吸い上げ東京池袋も尋常ではない猛暑である。バイトをしていない貧乏高校生竜ヶ峰帝人も、少ない財布の中身を気にしながらも学校帰りにコンビニでアイスでも買わないと生きていけないと嘆くくらいだ。家に帰っても待っているのは涼しいクーラーが効いた部屋ではなく、熱い空気を無駄にかき混ぜる扇風機だけ。このくらいの無駄遣いなら寧ろ推奨されるべきだろう。そう決めて近くのコンビニに入ろうとしたとき、ゴオンと鼓膜を直で打ち付けたような騒音が響いた。

「待ちやがれイザヤアアアア!!!」

「嫌に決まってるだろ君に構ってる暇無いんだってば!いい加減諦めろよ!ていうか死ね!くたばれ!」

「うるせえ黙れ殺す!!」

近くにある建物から飛び降りた黒い影は、向かってくる標識をスレスレの距離で避けて道を軽々と走っていく。途中鋭く光る刃物が公道を貫いたが、彼を追う金髪の男はその凶器を片手で軽々と払いのけ、あるいは握り潰してしまう。折原臨也と平和島静雄が命懸けの喧嘩を繰り広げていた。帝人に気づかず、二人は彼の前方で踊るように駆ける。

「…あっつ」

池袋を知らない人間なら思わず目を剥いてしまう程壮絶な非日常だが、帝人にとってはもう日常的な光景だった。慣れとは恐ろしいものだ。帝人は目の前のデッドオアアライブよりも、その二人の服装の方がよっぽど気になった。繰り返すが、池袋は猛暑である。そんな真夏日に関わらず普段のバーテン服と黒のファーコートのスタイルを崩さない二人に、驚きを通り越してあきれた。あんな格好で建物上ったりして、暑くないのだろうか。

「やっほーみかプー!久しぶり!」

「帝人君じゃないっすか!久しぶりっすね」

「やー!またやってるねあの二人」

隣にある地下の階段から見知った男女が顔を出した。狩沢と遊馬崎だ。狩沢の方は何やら大量に何かが詰められた紙袋を抱えており、手提げ鞄にそれを積めながら「やっ」と片手を上げて挨拶した。平穏な挨拶を交わしあっている横で、未だに情報屋と喧嘩人形の戦争は終結を迎える様子はない。先程から周りの標識が数本犠牲になっていた。

「相変わらず見てるこっちが暑苦しくなるほどの激しさっすね…」

「ほんとほんと!激しいよね!お互いがお互いしか見てないって感じ!萌えるよね!」

「…えっ、萌え…るんですか?」

どうしようまた分からない世界だ。
狩沢と遊馬崎の世界には触れたところで理解出来ないことの方が多いのだが、臨也と静雄は二次元ではなく実際に居る人物だ。でもあの二人が喧嘩したら萌えるってどういうことだろう?と狩沢の隣に居る遊馬崎に視線を投げ掛けてみるが、彼も彼で顔をひきつらせていた。

「狩沢さん!乙女ロードを疾走するイケメン皆が皆そういう関係じゃないっすよ!二人に聞こえたらギニャーッにされるじゃないっすか!!」

「だってもうシズちゃんがイザイザにラブコールして追っ掛けてるようにしか見えない!絶対ラブだよ!ボーイズでラブだよ!」

「あの…なんですか、ボーイズでラブって…?」

嫌な予感がしながらも、好奇心旺盛な年頃な帝人は嬉しそうにはしゃぐ狩沢に尋ねてみた。すると彼女はよくぞきいてくれました!とでも言いたげに目を輝かせ、帝人にビシッと人差し指を突きつける。そして凄く素敵な良い笑顔で爆弾を投下した。

「あのねみかプー!シズちゃんとイザイザはね…」



田中太郎【お互いが好きで好きで仕方ないのに素直になれなくて思わず喧嘩しちゃうんだよ!!!】
セットン【Σ(゜ロ゜;】
田中太郎【って知り合いに言われましたが本当ですか?】
セットン【あり得ないです】
田中太郎【即答ですか!】
セットン【だって考えても見てくださいよ。想像できますか?あの二人がですよ。鳥肌が立ちます】
セットン【それに好きあって何であんな喧嘩するんですか】
田中太郎【だからお互い素直になれないんですよ】
セットン【…田中太郎さんが勇者に見えました】
セットン【ていうか、そんな話誰から聞いたんですか】
田中太郎【うーん、稀に遭遇する方です】
田中太郎【その方が言うには、折原さんが真夏でもファーコート着ているのは平和島さんに見つけて欲しいからだって】
セットン【うわああ…】
セットン【まじっぽい】
田中太郎【言われると、そうかも…?って思っちゃいますよね。だって真夏ですよ!真夏なのにコートとバーテン服ですよ!猛暑なのに!】
セットン【田中太郎さん落ち着いてw】
セットン【まあ確かに、そっちの方は気になります】
セットン【今日なんて30越えてましたし、相方も流石にバテてました】
田中太郎【セットンさん…】
セットン【はい?】
田中太郎【さりげなく前半流そうとしてますね】
セットン【バレたかw】
田中太郎【ああでも本人に会ったら聞いてみたいです!】

甘楽さんが入室されました

甘楽【きゃっほー!みんなのアイドル甘楽ちゃんでーす!】
セットン【ばんわー】
田中太郎【甘楽さんこんばんは。遅いので今日は来ないかと思ってました】
甘楽【ちょっとツッコミはなしですかあ!】

内緒モード 田中太郎【で、臨也さん。今日のことですが】
内緒モード 甘楽【いきなりかい?ていうか君、見てたんだね】
内緒モード 田中太郎【ええ。チャット来てるってことは無事なんですね。良かったです】

甘楽【遅くなったのは理由があるんですよ!ごめんね田中太郎さん】
甘楽【ちょっと煩わしいワンコが道端で噛みついてきて、追い払ってたら遅くなっちゃいました><】
セットン【ワンコてww】
甘楽【毎回噛みついてくるんですよ!しつけがなってないです!ぷんぷん!】

内緒モード 甘楽【どうせ狩沢から聞いたんだろ?悪いけどシズちゃんとはそういう仲じゃないから。おぞましい。信じたわけでもないのにチャットで言い触らすの止めてくれないかい?それとも何、俺の反応でも見たかったの?】
内緒モード 田中太郎【信じてはないですけど、それもそれでありかと思いました】
内緒モード 甘楽【無いよ】
内緒モード 田中太郎【じゃあ前半尋ねる代わりに、真夏にコートの理由教えてもらっても良いですか?】
内緒モード 甘楽【じゃあって君ね…】

田中太郎【犬に襲われるって珍しくないですか。甘楽さん犬に好かれる良い匂いとかしてるんですかね】
甘楽【そんなの付けてないですよ!やだもう田中太郎さん、それセクハラですよう!甘楽ちゃん泣いちゃいますからね!】
セットン【セクハラというより、田中太郎さんが天然タラシな気がしてきます】
田中太郎【タラシじゃないですよw】

内緒モード 甘楽【情報料貰うよ?】
内緒モード 甘楽【って言ったら良からぬ噂流されるかな】
内緒モード 田中太郎【流しませんよ。誰かさんじゃあるまいし】
内緒モード 甘楽【君も随分言うようになったよね】
内緒モード 甘楽【ああ、分かったよ】
内緒モード 甘楽【ちなみに、全然たいした話じゃないよ】

甘楽【犬に追い掛けられるのが怖いから、いつもポケットに犬用のクッキー入れてるんです!】
田中太郎【クッキー?】
セットン【食べてる隙にダッシュですか!】
甘楽【ダッシュですっ!】
田中太郎【もしかしてその犬それが目的で甘楽さんのこと追っ掛けてるんじゃあ…】
甘楽【あ】
甘楽【やだ!本末転倒じゃないですか!】
田中太郎【今気づいたんですか!】
セットン【甘楽さん可愛いなあ^^】

内緒モード 甘楽【コートにはナイフ仕込んであるから、アレじゃないと池袋行けないんだよ】
内緒モード 田中太郎【いつもナイフ何処から出してるんだろうと思ったら、そういうことだったんですね】
内緒モード 甘楽【そういうこと。妙なこじつけしないでくれよ、全く】
内緒モード 田中太郎【で、臨也さん】
内緒モード 甘楽【…なに?】
内緒モード 田中太郎【犬用のクッキーって、なんですか?】

甘楽さんが退室されました

田中太郎【あ!!】
セットン【甘楽さん?回線悪いのでしょうか】
田中太郎【逃げられました】
セットン【え?】
田中太郎【いえ、此方の話です】


内緒モード 田中太郎【臨也さんってもしかして、静雄さんに餌付けして喧嘩終わらせてるのかな…なんてね、違うか。妙なこじつけするなって言われたばかりだし】
内緒モード 田中太郎【でも、どうしてだろう。全然想像できる】
内緒モード 田中太郎【狩沢さんに毒されたかなあ】
内緒モード 田中太郎【で、結局臨也さんと静雄さんの関係って何なんだろう】


―――
狩沢さんの影響パネェ


2011/06/23 00:13

リク/臨波

結婚式の招待状を手に取った。
差出人は来神のクラスメイト。当時は学校の同級生の恋愛沙汰を引っ掻き回したりしてそれなりに楽しんだ記憶があるが、卒業と同時に何もかも頭から追い出した筈だった。だから今回も差出人の名前を見ただけでは誰だか認識出来なかったが、来神、クラスメイトと単語の意味を拾って掘り下げていくうちに、ぼんやりと思い出すことが出来た。しかし臨也は招待状の中身をきちんと確認することもなく、ぐしゃぐしゃに丸め込んでゴミ箱に捨てた。



「あら」

書類の整理が終わり、軽い休憩に入っていた波江が軽く声を上げた。休憩がてらにつまんでいた菓子の袋を捨てようとゴミ箱に手を伸ばしたさきに、原型をとどめない程潰された招待状を見つけたのだ。手にとって広げてみると、知らない他人の結婚式の日時や場所が書かれている。

「なんで、こんなぐしゃぐしゃなの」

波江は招待状を元のゴミ箱に投げ捨てながら首を捻る。差出人には全く興味は湧かないが、こうして招待状を潰してゴミ箱に放り込んだのは臨也だろう。彼の意識がゴミ化した招待状から見てとれて、こいつでも人並みに人の恋愛を妬んだりするのかしらと考えてしまった。

「何か失礼なこと考えてるだろ」

いつの間にか臨也に視線を移していたらしい。キーボードを叩き終わった臨也と目が合い、波江は眉をしかめた。そして隠す必要も無いので正直に口にする。

「貴方にも結婚願望があるのね」

「そのゴミからどう解釈したのか知らないけど、無いよ。結婚願望なんて。全人類と結婚出来るならアリだけどさ――あ、シズちゃんは当然省いてね」

「貴方が変態だってことはよく分かったわ。でもじゃあ、なにこれ」

これ、と波江はゴミ箱を指差す。招待状を拾い上げる気にはならなかった。そうしなくても十分伝わるだろう。臨也は「ああ」と小さく頷いた。そして波江の横にあるゴミ箱まで歩き、中の招待状を取り出す。

「彼らはね、俺の高校のクラスメイトだよ」

「そう。二人とも仲良かったの?」

「いや全く。俺の記憶が確かなら彼らは付き合ってもいなかったし、友人でもなかったし、会話したことも無い仲だった」

人生とは何が起こるか分からないものだ。
彼らは当時存在を認識していたかも怪しい人間を人生の伴侶としてこれからの未来を歩む。来神生という細い細い繋がりが運命の赤い糸だと言うのなら笑い話だ。臨也はまた招待状をぐしゃぐしゃに丸め直してゴミ箱に捨てる。招待状から二人の幸せの香りが漂ってくるようで気分が悪かった。――そこには、何も無かった筈なのに。結婚する理由など当時には欠片も存在していなかった筈なのに。約束なんてものだって無かった。

「短い期間にどれ程の愛の言葉を囁き合ったのかはしらないけれど、そんな僅かな期間が今後の彼らの人生を決めるんだよ。そう思うと本当に人間っていうのは面白い。愛には、色んな形があるんだよ。ねえ波江」

「私に言わせればそんなのは愛じゃないわ。薄っぺらい幻想、虚構よ」

「…君もかなり異質な恋愛観を持っているよね」

そう言いながらも臨也は彼女のそれに同意した。彼女が察した通り、一枚の紙の持つ誰かの幸せを妬ましく思ったのは確かかもしれない。
臨也は人間が好きだ。心の底から愛しているし、それが人生の原動力と言っても過言ではない。だからこそ彼は知らない。普通の人間の普通の恋愛観を知ることはできない。彼は愛を知っていても恋に関しては全く理解出来なかった。そこに何ら価値を見いだせないから、というのが一番の理由だ。だから結婚願望というのも無い。
彼は愛に人生を捧げている。故に分からない。当時高校では話したこともない人間同士が、自分と同じように愛を語るなど、理解出来るわけがない。そこには何もないのだ。当時臨也が人間に抱いていたような愛情を、彼らは全く抱かなかった。当時臨也が人間に囁いた約束も、彼らの間には全く無かった。そんな二人がいつの間にか先に幸せを手にいれている、彼らを結んだものが自分の愛と同等かと思うと腹が立つ。

「…ねえ、波江さんは結婚願望とかないの?」

「誠二以外の男に自分の人生を預けるかと思うと吐き気がするわ」

「君らしいね」

ああ、やっぱりそうなのだ。臨也は薄く微笑んで波江に背を向けた。――自分の人生を個人に差し出すなんて本当に吐き気がする行為なんだ。
臨也は彼女の言葉でそれを改めて確認した。自分の愛と彼らの愛は別物だと結論付ける。招待状を手にしたときに沸き上がってきたのは結婚願望から来る嫉妬ではない。自分が長年培ってきた人間愛よりも先に果たされた約束事があまりにも薄っぺらいことに対する憤りだ。―――でも俺は自分の愛を幻想にも虚構にもしない。
何も待ってないくせに、何も理解していなかったくせに、どうしてか結び付いてしまった愚かな人間たち。「そんな人間が好きだ」臨也は機嫌良くそう叫び、顔も忘れてしまった同窓生を心から哀れみ、同情した。その顔には人間に対する変わらない深い深い愛情が刻まれていた。


―――
人間←←←←←←臨也×波江→→→→→→誠二になる。どうしてもそうなる。
リクエストなのにすみません><原作のさばさば関係の二人が好きです。
この二人お互いに相手の恋愛観は気持ち悪いと思ってるよね。

2011/05/22 22:57

イヴェサン

(声が出なくなったローランサン)


朝起きてからすることは近場のパン屋の行列に並んでパンを購入すること。昨日買ったパンを口にする気にはなれないので、毎日焼き立てのパンを買いに行く。その為必然に早起きが得意になった。そして眠り続けている相方の元へパンを運び、二人でテーブルを挟んで朝食を食べる。それが俺とローランサンの日常だった。
俺は今日もいつも通り早起きしてパンを購入し、宿へ戻る。水代わりにと果実を数個おまけに買った。ドアを開けて中に入ると、こんもりと膨らんだ薄い毛布が目に入る。

「おいサン、朝食」

ため息混じりに伝えると、もそりと毛布が動いた。中から癖毛だらけの白髪ととろんとした瞳が表れる。そして上体を起こす彼を何気なく見ながら、「あ」と思わず声を漏らした。あまりにもいつもと変わらない朝だったから忘れてしまっていたのだ。ローランサンの首もとに巻き付く包帯が瞳に焼き付いて、思わず顔を逸らした。当たり前のように彼からの朝の挨拶を待っていた自分が馬鹿みたいだ。
ローランサンは毛布から抜け出すと俺の髪を遠慮なく両手で掴んで固定させてきた。顔の向きを変えられて、ようやく彼が目を逸らされたことに不満を感じたのだと気付く。俺より少し高い位置にある瞳がじっと見下ろしてきて口を動かした。

「お・は・よ・う…はいはい、おはよう」

空気がぱくぱくと音を振動させ、口の微妙な動きで言葉を聞く。この状況で言うことなんてひとつしかないから彼が何を言いたいのかすぐに理解した。俺はなるべくいつも通りを装って彼の腕を引っ張ってテーブルまで連れていく。ローランサンは眠そうな目を擦ってのんびりとした足取りで俺の後ろをついてきた。


「そういやお前、仕事出来るのか?」

テーブルに並べられたパンにがっつくように食べるローランサンの様子は普段とあまり変わらない。体力は戻っているのかと安堵しながら、沈黙の中食事するのは嫌でローランサンに話し掛ける。彼はパンを口にする作業を一時停止して、俺をじっと見ながら首を傾げた。

「…あ、言ってなかったけど仕事入れたんだよ。軽いけどさ、お前が辛かったらキャンセルしようかなと思ってて。盗みじゃないよ?隣町までの荷物運びだ」

そこまで聞くと彼はちょいちょいと指を動かした。この合図は『書くものをくれ』という意味だ。最初は通じなくてお互いピリピリしていたが、数日経ってようやく慣れてきた。しかしまだべらべらと陽気に話すローランサンのイメージが頭から抜けることはなく、違和感に感じることは多々ある。さっきも忘れていたくらいだ。
紙と羽ペンとインクを渡すと、彼は書きにくそうにしながら文字を綴った。インクが圧力で滲んだ蚯蚓のような文字に俺は思わず目を細める。これは俺が知っている国の言語なのだろうか。サンスクリット語か。

『大丈夫だけど、俺必要無くねえ?』

と書かれてあった。かなりの意訳でだ。
俺は紙をローランサンに突き返しながら、頬杖をついてパンをテーブルに置く。

「あそこ盗賊が頻繁に出るんだよ。俺が運転手。で、お前は護衛」

ぷっ、とローランサンが吹き出した。多分盗賊が盗賊対策の護衛をやるなんて滑稽だと思っているんだろう。俺も実際仕事を受けたとき思った。彼はそれをわざわざ文字にする気力(というか能力)はなかったらしく、紙には必要性のある言葉だけを記入する。

『了解。やる』

「傷は痛まないのか?俺が心配してるのはそっちなんだけど。包帯取れてないし」

『傷見たくないから取ってねえだけ。痛くはない』

「そ」

俺は軽く答えると、パンを全部胃に収めた。そしてげんなりとテーブルに項垂れた。結構すんなりと行っているように思えるが、実はこれ書くのに数分、読むのに数十秒掛かっている。いい加減疲れた。いつか慣れるのかなとぼんやり考えているが慣れる前に治って喋れるようになるのが本当の願望だ。俯いている俺を不審がっているのだろうか、わざわざ『イヴェール?』と紙に俺の名前が書いて差し出してくるので、それを見て顔を上げる。

「この蚯蚓文字まじ読みにくい。改善しろ」

紙を指差しながら正直に告白すると、ローランサンは額に青筋を浮かばせて俺の頬を引っ張ってくる。ぎゅううと音がするかと思うくらいに遠慮がない。手を上げる前に口で伝えてほしいと思ったが、ローランサンは今口が使えないと気付いて甘んじて怒りを受け入れた。しかし死ぬほど痛かった。

―――
喋れない絶望を克服しつつあるローランサンと古代文字翻訳機イヴェール。あえて傷の理由に触れなかったのは、続き書ける機会があったらその時につっこもうと思ったからです。
喋らずに頷いたり首振ったりかしげたりするローランサンの動作かわいいムシャアアアアという煩悩から生まれた小話でした。

2011/05/11 22:59
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