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危険なものには※
主にサンホラ
Twitterでイドさんいっぱい

sh/drrr/小話/返信

活字に飢える

っていうのたまにありませんか。私の場合読みたいんじゃなくて、書いてみたいんです。小説じゃなくてもいいから、なんかこう日記でどうでもいい思考広げて、文字になったそれを見て謎の達成感に包まれたい…みたいな。酔ったまま寝たから水飲みたくて二時くらいに起きて、その時点から文字に飢えてたので日記を更新してみたのですが、まだ足りないですね。Twitterでも呟いてみたんだけど、ちょっと違うんだよな。もっと厚みのある文字を見たい。寝ずに何言ってるんだろう私。
あ、課題終わらせました。凄くアバウトな範囲で「少しでも擦ってたらいいよ」って感じだったので、良い機会だしトロイア戦争について書いてみました。実際は神話ではなく、その土地の層ごとの歴史とか発掘過程とかそっち方面の話なんですけども。考古学に目覚めそうになった。明日か明後日提出なので大学行ってきます。なんで手渡しとか面倒なことさせるんだろうね。
また今日も文化祭行ってきます。いや楽しいんだって母校。双子にちょっかい出しに行ったら丁度友達が近くにいたらしく思春期ぶって適当にあしらわれたよね。その友達の「へえお前のお姉ちゃん…へええ」のテンションが中学生でもう大好き。今日の家族会議のネタです。あとまた後輩に差し入れ持って行こうと思います。

話変わりますけど、君は僕の希望の忙しさがツボってます。歩きながら聞いてたら自然と足が速くなっちゃう感じの。急がなきゃ!みたいなテンポ。でも一番聞いてるのはリンホラテーマかな!再生数そろそろやばい。


2012/09/23 06:14

王様とイヴェール、コルイドのお話

恋人「陛下の好きなところ:料理が上手・一生懸命なところ、陛下への要望:今日は早く帰ってきてね」 http://shindanmaker.com/130916

「陛下はチーズや辛いものがお好きで、よく赤ワインのおつまみを自分で作るんです。夕食の後、お仕事が片付くと軽く音楽を口ずさみながら、魔法の様にぱっと作っちゃうから、僕はそれをずーっと傍で眺めているのが好きです。あんまりにも僕が見つめてるから、陛下が『イヴェ君もこの後暇?』って訊いてくださって、僕が『暇です!』って答えると、傍にあった砂糖をふんだんに使うんです。僕は双子姫に良く甘いお菓子を作ってもらうから、陛下は僕は甘いものがとっても好きだって知ってます。陛下の作ったおつまみはセボン!赤ワインと、おつまみをテーブルの上に広げて、僕は陛下のお言葉に耳を傾けるんです。陛下が、一生懸命頑張って描いたメロディーを僕にだけそっと語ってくれるその時間が何よりも幸福です。陛下が素敵な音楽をこの世に生み出すその瞬間まで、イヴェールはずっと待っています。でも今日はちょっとだけ寂しいので、早くお顔を見せてください」


イドが愛するということは、思想の違いを認めるということ。気付いていなかっただけで、あの頃の二人にもたしかに愛は存在していたのです。 http://shindanmaker.com/104806

「生まれ育った世界が違う。慣れ親しんだ言語も違う。好みだってまるで違う。そもそも私と君は異なった思想を通して世界を見ている。相違点はいくらでも見つかるのに、類似点は何処を探したって見つからない。君は十字架のしるしによって世界が統一されることを心から望み、それが正義であると信じている。全ては神の為、陛下の為。それでいい、君はそのままでいい。たとえ君の思想が私の愛を拒絶したとしても、私は飽きずに君の背中を眺めていよう。君を支え、光の元へと導く追い風になるために、私は此処に存在しよう」


大好きな人んちを突然「今夜泊めて」と訪ねてみた。どうなる? イドは、「待ってて」と言われ待ってたら、相手はバケツを持って現れ「頭冷せ」と水をかけられた。 http://shindanmaker.com/107644

「〜〜〜っにするんだ突然!!!」
「いやそれはこっちの台詞だ。大丈夫か?珍しく酔ってんのか?それとも熱あんのか?」
「素面だ!!熱も無い!!」
「…いやだって、お前が、人の部屋に泊めてとか、…………え?まじで?」
「まじだ」
「何か理由があるのか」
「…強いて言うなら眠れない」
「それこそ酒飲んで寝ろよ」
「お前そんなに私を泊めたくないのか」
「泊めたくないってわけじゃねーけど…意味分かって言ってんの?」
「一晩泊まることに意味が存在するのか低能」
「低能はお前だよ。俺のベッド一つしかないぞ」
「だから?」
「………」
「………」
「…あーわかったよ、わかった。入れよ。ったく、女王様め」




2012/09/07 23:58

なんてことはない。獣になったアメティストスの話

 船と埠頭を繋ぐ為に括り付けた階段が、見るも無惨な姿で海に浮いている。波に飲まれ浮き沈みを繰り返す木材に視線をやり、イドルフリートは頭を抱えた。嗚呼何故船長が居ない時に限って面倒事が起きるのだろう。船長が不在の今、留守を預かったイドが必然的に責任者という事になる。嘆いても同情してくれる人間は傍に居ない。確実に何かが潜んでいる船に荷を持ったまま乗り込むのは危険だが、このまま此処に放置しても盗られてしまうのは目に見えているので、イドは片手にしっかりと荷物を持ち、反対の手で剣を握った。埠頭側の板は穴が空いて海が見えるが、まだ無事な所に足を乗せてみても崩れる気配は無い。不吉な音を響かせる足下に常に意識を配りながら、早足で船へと上がった。

 甲板へ上がり、自分の部屋へと向かう。先日雨が降ったその時のまま放置されている床板は滑り易く、イドは慎重に歩を進めた。此処まで船に目立った変化は無かった。ただ、何かがいるという違和感だけは常に張りつめている。それは人と形容し難い様な、熱を持った何か、という漠然とした気配だけだった。確固たる理解も追いつけないまま警戒心だけを抱くのは、焦燥感も共に沸き上がってきてしまうので落ち着かない。イドはいつの間にか口の中に溜まった唾液を喉の奥へと飲み込んで、眼前にまで辿り着いた部屋のドアを見据えた。
 此処だと、イドは確信した。無意識に剣を握る手のひらに汗が滲む。部屋に近づく度に違和感は増して行った。声も物音も聞こえないが、此れもまた無惨に形を変えたドアの拉げ具合が生き物の存在を証明している。しかしイドは足を止めなかった。変わらず警戒心を剥き出しにしながら、既に使い物にならなくなったドアを押し、部屋の中に足を踏み入れる。その刹那、イドは身動きが取れなくなった。物理的な意味ではない。目の前に存在するものの姿に驚き、一瞬頭が真っ白になった。手のひらに集まった汗がぶわりと増し、額に張り付いた前髪の横を冷や汗が滑る。

(…え、…いや、なんで、これが、ここに…)

 イドの回転が速い脳を持ってしても、この状況を理解するに至らなかった。呆然と立ち尽くしていると、ふと物音が響いてイドは体を強張らせる。人が入ってきた事に気づいたのか、目の前の生き物は緩慢な動きで首を持ち上げた。鋭い眼光と目が合い、蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなる。
 部屋に侵入していた生き物は、獣だった。体の大きさはイドの何倍もある。イドの大きく無い部屋を占領するベッドの上に、所狭しと居座っていた。どうやって部屋に入り込んだのか疑問に思うが、拉げた入り口を見れば合点がいく。銀色の毛並みに包まれた巨大な獣は狼の姿をしていた。濡れた鼻の下では鋭い牙がちらちらと存在を主張し、イドに視線を向けたままぐるると低く唸る。威嚇、なのだろうか。イドは漸く剣の存在を思い出した。ただ下手に刺激するものどうかと一瞬悩み、柄の部分に軽く触れるだけに留まる。
 イドは元が帝国の北方生まれであり、視界に入れる場所の殆どが森に囲まれていた。そんな場所で幼少期を過ごしていたから、狼の存在を知らない訳ではない。襲われそうになったことも数回あるが、丁度馬に乗っていたり、銃を持っていたりと、不幸中の幸いで逃げ延びてきた。その時襲ってきた狼の全てが犬と変わらない大きさだった筈だ。ベッドに収まりきらないほど大きな狼など見た事も聞いた事も無い。

(…どうすればいい、どうすれば)

 らしくもなく焦っていた。ただでさえ本能で体が恐怖に震えるというのに、狼に良い思い出を持っていないイドからすれば、天敵を目の前にしている様なものだった。じっと観察していた獣がおもむろに前足を動かすと、イドはびくりと肩を跳ね上げる。後ろに後退しようとして、既に背中が壁に当たっている事に気がついた。嗚呼まずい。そう思う前に、獣は両足を床へと下ろす。大きな尖った耳は空気に触れてあちこちに動き、イドが生み出す音を一つ残らず拾った。時折低く唸り、イドの腹に自分の濡れた鼻を押し付ける。剣を持っているというのに彼は何一つ行動を起こせずにいた。心臓が異常なほど鳴り響いているのさえこの獣に全て読み取られている気がする。獣はイドの体に鼻をうずめ、くんと匂いを嗅いだ後、いきなり全身を持ち上げてイドの肩に前足を置いた。

「…うわっ!!」

 巨大な体重が肩に集中し、イドはバランスを崩して床に尻餅をつく。慌てて立ち上がろうとしたが、獣はそれを許さない。横に裂けた口を開き、鋭い牙が表に現れた。目の前の異常事態にイドは悲鳴を上げる事さえできなかった。食われる。目を瞑って固く瞳を閉じ、自らの体に訪れる激痛に耐えようと体を強張らせた。

「………?」

 しかし次に体に触れたのは牙でも爪でもなく、柔らかな毛並みだった。疑問に思ってそっと目を開くと、獣は相変わらずイドの肩に前足を乗せ、まるで甘える様に銀色の毛並みを擦り寄せてくる。イドはこの感触を何処かで知っている気がした。前にも同じ様に抱きつかれたことがあったからだ。しかしそれは随分前の話で、相手は獣ではなく人でありそれに、まだ少年と言える年齢だった。
 随分落ち着いた様子のイドを、観察する様に獣は体を離す。何かを伝えたげに見つめてくる双眸を、彼はじっと見返した。獣の瞳は綺麗な紫色だった。またこの色を何処かで見た事があるイドは、思案しながら獣の毛並みに視線を滑らせた。銀に所々混ざる紫の房は、流れる様にうねっている。記憶に丁度重なった人物を思い描いて、イドはふるふると首を振った。いやまさか、まさかそんな筈は。半信半疑で剣から離した腕を伸ばすと、獣は応える様に鼻先を手のひらに押し付けた。すんと嗅がれて、擽ったさに指を丸める。

「久し、ぶりだな…、アメティストス…?」

 問いかける様に名前を呼ぶと、獣はぺろりとイドの手のひらを舐めた。


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中途半端いえい


2012/09/06 23:01

キス(コルイドベル)

「昔街の商人の娘さんに告白されたんですが、好きな人が居るからその気持ちを受けとることは出来ませんと伝えたら、じゃあ一度だけキスさせてくださいってお願いされて、それが私のファーストキスですね」
「ベルナールが顔に似合わず羨ましい過去を送ってきてるんだけど」
「顔に似合わずって何ですか失礼な!」
「ファーストキスを好きでもない女としてるとこは相変わらず流されやすい性格だとしみじみ」
「うるさいですよイドさん!」
「でも好きな女が居たんだろう?」
「居ないですよ、断る口実です。大体その街はたまたま寄ってただけなんですから」
「そうかー。俺なら付き合うけどな」
「それより将軍のファーストキスは誰なんですか?」
「どうせあの子煩悩の父君だろ」
「…………………」
「…………えっ将軍?」
「…………コルテス?」
「…うっせえ」
「…………本当ですか?」
「…すまん、まさか図星だとは思わなかった。いや仲の良い親子じゃないか。親の居ない私には羨ましい限りだよ。大丈夫だ、肉親とのキスはカウントされない。……しかし覚えてるってことは物心ついた後なんだな」
「イドさんドン引きしない」
「……イドはどうなんだよ」
「私?16」
「ダウト」
「何故分かる!?」
「いやなんで嘘ついたんですか」
「本当は?」
「18」
「ダウト」
「チッ」
「将軍もなんで嘘って見破れるんですか!?」
「イド、本当のこと言わないと今日のお前の夕食に唐辛子をそっと忍び込ませる」
「地味ですね!?」
「…先月」
「ちょっ、めちゃくちゃ最近じゃないですか!」
「童貞捨てる方が早いってどういう事態だ」
「初めてのキスは初恋の人が良いとかそういう…」
「もしそうだったら俺はドン引く」
「………巨乳に奪われた」
「?なら良かったじゃないですか。イドさん好きですよね、巨乳」
「いや…巨乳だが、顔はアレの、男か女か分からない宿屋の」
「あ、もう分かった言わなくて良い」
「……うわー、壮絶すぎてさすがイドさん」
「しかし今まで会ったどの女よりも胸のでかい女と接吻できたという事実は光栄に思うべきかもしれん」
「………さすがイドさん」
「お前一度川で脳ミソ綺麗に洗い流してきたら?」




2012/08/29 03:35

小さな怪物をやっつける



(イドとテレーゼとメルツ)

幼い頃の記憶というのは大体が深淵に沈み容易には思い出せないようになっているが、時折ふと断片的に表に現れる。足下に魚が触れる擽ったさを感じ、私は子供の頃この感触が大嫌いだったなあと思い返した。足が地に着かない浮遊感は不安に繋がり、そこに得体の知れない生き物が通るともう駄目だと泣きわめいたのだ。手のひらの大きさも無い小さな生き物に食われると思っていたのだろうか。記憶に問いかけても答えは返ってこないが、ただただ恐ろしかったのだと、幼い私は訴える。私は小さな化け物に食べられてしまわないようにと、必死に藻掻いて大きな岩にしがみ付いた。ばたつかせても足が砂地を蹴る事は叶わず、滑稽に水を掻き回す。どんなに早く走る足があっても、どんなに難しい問題が解ける頭を持っていても、人は水の中では等しく無力だ。自分の力ではどうにもならない海の中が、幼いながらに大嫌いだった。
だが、そんな私が海に絶望してしまわなかったのは、偏に信頼できる人の存在だった。岩から手を伸ばしても決して届かないが、少し前に進めば触れる事が出来る場所に彼女はいた。近すぎず、遠すぎず、挑戦してみようかと思えるような距離に立つ彼女は、絶対に私を見捨てないと言うように両手を前に広げて待っている。涙か水か判別できないくらい顔を惨めに濡らした私は、赤くなった目で彼女の視線に応えた。今はもうはっきりと思い出せない彼女の柔らかい笑顔を見ると、足下の魚の恐ろしさなど魔法のようにぱっと消え失せてしまうのだ。大丈夫だと自分に言い聞かせる余裕を心の中に生む事が出来る。たとえ途中で力つきても、彼女なら自分を拾い上げてくれる。勇気を出して足で波を蹴り上げて、一気に目的まで体を我武者羅に動かした。
不安に打ち勝つほどの安心感というのは、なかなか手にするのは難しい。絶対的な信頼を私は母以外に感じた事はないのだろう。根気よく私の泳ぎの練習に付き合ってくれた母は私の歳が二桁になる前に死に、それ以降は誰かに自分の身を完全に委ねることはしなくなった。幼子の頃は当たり前に出来ていた事が、大人になった途端に出来なくなってしまうのは不思議なものだった。

「メルツ、こっち」

忘却の彼方へ追い遣っていた幼い頃の記憶を思い出したのは、目の前の親子の戯れが、私と母の思い出と似通っていたからだ。薄い衣服を纏って水の中に入り込んだテレーゼは、あまり深くない場所で足を止めて、浅瀬に佇む息子に向かって手を伸ばす。貴族の女が海の中に入るとは信じられない光景だが、それをあっさりと遣り遂げてしまうのが彼女の面白い所だ。テレーゼの胸辺りまである水の深さは、いとも簡単にメルツの頭を飲み込んでしまうだろう。しかし彼女は優しく微笑んで手を伸ばす。メルツはこわごわと彼女を眺め、ふと透明な水の中に見える魚の群れに肩をびくつかせた。

「ねえ、イド。貴方はそこで見ていてね」

メルツにしっかりと視線を向けながら、彼女は背後に居る私に声を掛ける事を忘れなかった。私が心配して手を貸してしまうと思ったのだろうか。念を押すような言いつけに苦笑して、言われた通りに大人しく二人を眺めた。此処まで来ると私の身長でも肩まで水が浸り、波に流されないように体を支えるのが少し難しくなる。

「ムッティ、ぜったいに手をはなさないで」

「ええ」

「もししずんだら、たすけてね」

「ええ、大丈夫よ」

メルツは何度も確かめる。その度にテレーゼは頷く。広げた腕を、一度も下ろそうとはしなかった。彼女はその行為がメルツの不安を煽ってしまうと知っている。テレーゼが力強く頷いたとき、メルツはぎゅっと目を瞑って水の中に飛び込んだ。体を飲み込む水を掻き分け、ばたばたと足を動かして前へ前へ進む。縋るように伸ばされた小さな手を、テレーゼはしっかりと包み込んだ。

「すごい!すごいじゃない、メルツ!」

幼い体を抱き上げて水の中から救い出し、テレーゼは喜びの声を上げた。母の声に励まされて顔を上げたメルツは照れくさそうに破顔する。

「ムッティ、ぼくおよげた?見てた?」

「ええ。すごくかっこよかったわ」

テレーゼが水に濡れてびしょびしょになった顔を軽く拭ってあげて頬にキスすると、メルツは嬉しそうに彼女に抱きついた。目標を達成した彼は誇らしげで、それはまるで化け物退治から凱旋した勇敢な英雄の様だ。彼女たちの笑顔につられて此方も笑ってしまう。

「さすが私が見込んだ男だなメルツ!君ならば船乗りにだって簡単になってしまうよ」

「ほんとう!?」

「ああ、本物の船乗りが言うんだから間違いなしさ!」

きらきらと瞳を期待に輝かせてメルツは私の方を向いた。テレーゼが余計な事を言うなと言いたげに唇を尖らせたが、船乗りに憧れる子供を海につれてきてしまった時点で彼女も共犯者だ。唇に指を当てて軽く微笑むと、彼女は諦めた様に肩を竦める。

「ムッティ」

そうしたやり取りを大人達の間で交わしていると、メルツが自らを抱きかかえる母を呼んだ。不機嫌な顔を一変させてテレーゼが息子に視線を送ると、彼は内緒話をするように口元に手を添える。テレーゼはその仕草に応えて、メルツの囁きに耳を傾けた。それに「おや、仲間はずれか」と少し残念そうに眉を下げてみせると、メルツは此方をちらりと見て、悪戯を思いついた子供の様に口元を緩ませる。

「おねがい、ムッティ」

息子の内緒話が想像と超えていたのか、テレーゼは少し目を丸くした。思案するように口元に手を当てる。しかし最後にメルツが言葉を紡ぐと、柔らかく目を細めた。それはテレーゼがする肯定の仕草だった。メルツは何のお願いごとをしたのだろう。気になって母子の傍まで泳ごうとする私に、テレーゼは首を振った。

「イドはそこで待っていて」

「なんで君はそう私の場所を固定したがるんだい…」

「イド、そこにいてね」

母子二人に念を押され、諦めて足を止める。嗚呼、波を受ける裸の体が冷たい。テレーゼとメルツが戯れる光景を指を咥えて眺めているのは些か寂しいものだ。ただ二人の内緒話を壊してしまうのは本意では無いため、大人しくお預けされたままでいる。私が動かない事をしっかりと確認したメルツは、振り返って母を見上げた。彼女もその視線に応えて、こくりと大きく頷く。

「「えいっ」」

元気の良い掛け声が空いっぱいに響いたと思ったら、テレーゼの手を離れたメルツが危うい動きで足をばたつかせた。彼は迷い無く距離が開いた私の方に向かって泳ぐ。それは容易に予想出来たはずなのに、唐突の事で頭が真っ白になった。水しぶきを上げて向かってくる小さな体を沈めてしまわないように慌てて足を動かそうとすると、「イド」とテレーゼの咎める声が掛かる。

「ちゃんと待ってあげて」

そう彼女は次いだ。私ははっとして足を止めて、水しぶきに向かって精一杯腕を伸ばす。メルツを見逃してしまわないように視線を一点に絞った。彼は何度か苦しそうに酸素を吸い込み、海中で一気に吐き出す。はらはらしてその状況を見守りながら、大丈夫だと自分に言い聞かせた。
メルツは大丈夫だ。テレーゼがそう判断して、彼を私の元へ送り出したのだ。

「メルツ、こっちだ!」

一生懸命此方へ向かってくるメルツに届く様に声を張り上げる。空中に一瞬顔を出した彼の表情は笑っている様に思えた。軈て、藻掻く様に伸ばされた小さな手のひらを、私は捕まえて外に引っ張り上げる。ぷはっと小さな声を上げて酸素を吸い込んだメルツは、次に私の顔を見てにっこりと笑った。

「イドのとこまでおよげたよ!」

そうして落ちてしまわない様に私の首にしがみ付いてくる。私はその小さな子供をしっかりと抱え上げて、テレーゼの方を見た。情けない顔をしていたのだろうか。私の顔を見た彼女はふ、と息を吐き出す様に笑う。そんな母の反応に、メルツも嬉しそうに手を振ってみせた。

「ね、イドならだいじょうぶだって、言ったでしょ?」

ーー嗚呼そうか、この母子は私を信頼してくれたのか。
メルツの言葉で、漸くそのことに気づいた。胸の中に溢れ返る感情を誤摩化す様にわしゃわしゃとメルツの頭を撫でれば、照れくさそうに見上げてくる。その瞳は先程と同じ様にきらきらと輝き、眩さを少しも失っていなかった。メルツは私が自分を見捨てない事を確信していて、テレーゼもその確信を疑わなかった。私が自らの母にしか寄せる事がなかった感情を、この母子ふたりは家族でも何でも無い私に向けてくれたのだ。それがどんなに喜ばしくて、幸福な事か。この母子の固い絆に触れる事を許された気がして、私は緩む頬を止められなかった。


2012/07/19 21:23
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