現代転生(久々知→女) 何がきっかけかわからない。突然、その記憶は頭の中に流れ込んできた。途端に自分が誰だが認識できなくなって、ゲシュタルト崩壊。登校拒否に親をも拒否。部屋に篭る生活を始めた。 「ねえ、なんで学校来ないの」 「お前にわかるかよ、俺の気持ちが」 「わかんないよ、言ってくれないと」 同級生が毎日毎日、諦めもせずに俺の所に通ってくる。教師の差し金かと思ったけどどうやら違うらしい。こいつは元々そういう真面目ちゃんだった。 伏し目になれば長い睫毛が見えて、そのままちらりとこっちを見る。上目遣いが様になっているのは元々持っている容姿のせいでもあった。 「…だって、みんな知らねえもん…」 「え?」 「みんな俺の知ってるヤツじゃねえもん!お前も!お前なんか知らねえよお前誰なんだよ!返せよ俺を返せよあの俺が俺ならこの俺は誰なんだよ意味わかんねえぇえええあああああ!!」 流れ込んできた記憶の中には今、目の前に居るヤツも居た。けれど随分と違う。容姿こそ変わらないが名前が違う、しかも性別まで違う。他にも違うヤツはたくさん居る。 「名前…」 「お前、久々知じゃねえんだから…俺ン中に入ってくんな…」 「……今、なんて」 ゆっくりと、この同級生は俺に近づき触れようと手を伸ばす。俺はそれを掃う。触れるな、やめてくれ、これ以上俺を追い詰めないでくれ。 「……――なのか?」 同級生から発された言葉は、ここ数日俺を悩ませたヤツの名前だった。つまり、流れ込んできた記憶の、俺ではない俺の名前だ。 どうして彼女が知っているのだろう。更に混乱しそうだ。 「思い出したのか…?」 「な、んだよ…何なんだよ…」 「俺だよ、久々知兵助だ」 そうか、お前も思い出したのかと同級生は泣きながら俺を抱きしめる。ちょっと待ってくれ、まだ混乱している。 「え…」 「お前は名前でも、――でもあるんだ」 「お前達二人の存在は、俺たちがちゃんと知ってるから」 そう言って優しくもう一度俺を抱きしめる。女になったことで母性に芽生えたようである、あったかい。ボロボロと涙が流れてきて、わけわかんなくなってきた。 久々知は優しく何度も背中をさすってくれていた。その手は小さくて、――が知っている久々知の手ではなかった。けれど俺が知っている同級生の手だった。 「会いたかった。思い出してくれて、ありがとう」 優しさ成立 「…久々知が、お前が居てくれてよかったよ」 2010.11.04 現代転生して、室町の記憶が戻ったらゲシュタルト崩壊すると思った。 |