「お前のせいだ。お前のせいで学園は、危険に」



 ぼろぼろ泣いて、それはそれは大きな涙を流して竹谷は腕を振り上げた。その手には使い古された苦無が握られていた。刃先がこちらへ向けられている。
 私達からしばらく離れたところには久々知が控えていた。見張りなのだろう、こちらを睨みながらも周りを見ている。反対側には不破と鉢屋もいる。
 何故こんな状況になったのかと問われれば答は簡単。私が裏切ったのだ。忍術学園とは関係の良くない城に情報を売り、そのまま逃げるつもりだった。しかし同級生に捕まってしまったのだ。私が裏切ることを知っていたのだろう。


「竹谷、何故泣くんだ」
「そんなのっ、お前が裏切ったからに決まってんだろ!」
「だから、なんで」

 信じられない、とでも言うような目で竹谷は私を見る。振り上げられていた腕を下ろして、竹谷はうなだれる。私は逃げようとは思わなかった。

「お前のことを、友達だと思っていたからだよ」

 俺はな、と竹谷は付け足す。上げられた顔は辛そうだった。どうして私なんかにそんな顔をするのだろう。自分は酷く客観的だった。
 竹谷はもう一度、苦無を握り直して振り上げる。決心がついたのだろう。





「なんで裏切ったんだ」

「さあ」

「仲間はいるのか」

「いない」



 淡々とした会話がされる。その間も竹谷は涙を止めることはなかった。しばらく沈黙していると竹谷が覆面で口を覆った。苦無を握る力が強くなったのを見た。



「俺、お前のこと好きだったよ」

「そりゃどうも」

「じゃあな」




 赤いものと涙が混ざっているのを見た。そして意識を手放した。





「はち、」
「泣くな、はち」
「名前を信じてた、けどダメだった…ダメだった…」
「……帰ろう。夜が明ける」






泣く



 朝日が昇り出す。鳥の鳴き声が聴こえてくる。竹谷の少しの優しさで苗字は優しく横たえられていた。朝霧が苗字に纏わり付く。


「…ん、しょ」


 死体は静かに動き出した。殺し損ねたのか、いや竹谷の苦無はしっかりと捕らえていた。苗字はけだるそうに、まるで朝起きたかのように起き上がり、伸びをした。


「どこへ行こうかなあ」


 ここでは死んでしまったしなあ。
 苗字はそう言って、学園とは逆の方向へ歩き出した。




現実


2010.09.13
死なない主人公
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